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菫人間はドールハウスに住めば良い

*上記の記事の続編です*

今朝、食べれば菫人間になれるという菫の砂糖漬けを買ってからずっと、いろいろなことを考えていた。
まずもし菫人間になるなら、移動できないこと小さいまま暮らすことを想定して、安全なふさわしい場所で小さくなることが必要だ。たとえば砂糖菓子を買った公園でいきなり小さくなったら、ネズミや猫やカラスに食べられてしまうだろう。それはいやな人生の最後だ。
鳥葬に憧れている私の夫なら最高だというかもしれない。でも彼はそもそも菫人間になりたくないだろう。うまくいかないものだ。
私はふいに思い出した。いつかみたドールハウス展のことを。そのときに展示のドールハウスを写した写真をスマホの中から探し出す。これだ。菫人間になったらドールハウスに住めば良い。
何年生きられるか分からないが食べ物も工夫して備蓄しておこう。そうだ、一番信頼できる妹に事情を話し、ドールハウスと菫の砂糖漬けと全財産を持って訪ねて行って、食べ物の差し入れをお願いして、妹のうちで小さくなればいい。そうすれば私が菫人間になって姿が見えなくなった時、失踪したと思って妹が悲しむ事態も避けられるだろう。
お金を渡して食べ物のことを頼んでおけばいい。菫人間になればお金はもう必要ないから私の全財産を妹に託そう、そうだそれが良い。
私はここまで考えてとても満足した。白菫の砂糖漬けは買ってすぐチャック付き冷凍専用袋に入れて冷凍庫にしまった。紫の砂糖菓子は予定通り手製のケーキに飾って今、食べている(なんともなさそうだ)。
「まずドールハウスを作ろう」
私はケーキを食べ終えて皿とティ-カップを片付けながらそう固く決心し、声に出してそう言った。


冬になる前に、器用な私はドールハウス展でみたような、とても素敵な自分でもほれぼれするようなドールハウスを作り上げた。細々した調度品も上手くできたし、小さな小さな絵を描いて額に入れて飾った。カーテンやじゅうたんも付けた。窓の外には遠く青い山がみえ、手前には野原が広がる小さな景色をちまちま描いて貼り付けた。
しかし私は、ドールハウス作りに熱心になりすぎて菫人間になって住むという最初の目的をすっかり忘れていた。作り上げたドールハウスは誰に見せても非常に褒められるので気を良くし、さらにインスタにあげたりしてまたすごく褒められて、そのままドールハウス作りに夢中になってしまったのだ。
思い出して冷凍庫を調べた時には、確かにしまったはずの白い菫の砂糖漬けはどこにも見当たらなかった。

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