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秋の夜

やっぱり一人がいちばんいい。
一人が楽でいい。
そう思いながらいつもの夜の公園を歩いていたはずなのに
なぜ私はジャズバーみたいなところにいるのだろう。
お酒ものめないくせに、目の前にはきれいな赤いカクテル。
小さなステージでは若い男性が聞き取れない甘い歌を歌っている。
まわりでは着飾った若い女性がうっとりと聞きほれている。
一人だけ、若くもなく、着飾ってもいない、酔ってもいない私。
ステージにいるのは男性ばかり。
歌うのも演奏するのもみんな男。
ピアノ、ベース、フルート、サックス、トランペット…
どの曲も甘く切なく誘っている。
ああ、そうだ、きっとここは…

ここは…
気がついた私はもとの公園のベンチにすわり、うつらうつらしていた。
涼しくなった秋の公園では虫のオスたちが美しく鳴いている。
どこか草かげで虫のメスたちがうっとりと聞いている。
私には関係ない、
と立ち上がる。
月の美しい道を一人歩いて帰ろう。
一人がいい。
一人で歌おう。
自分のために。
歌いながら歩こう。





⁂ スタエフで朗読しました


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