見出し画像

狐の松明

学校で作ったキツネのお面を付けて歩いていたら、木の根元に一本だけ赤い彼岸花が咲いているのを見つけた。
いつもの私ならそんなことしないのに、とてもイライラしていたのでポキッと手折った。
手にした瞬間に、ぼわっと火のような熱が感じられ、私はまじまじと花を見つめた。赤く光っている。燃えているようには見えない。花が燃えるわけがない。いくら「狐の松明たいまつ」という別名があるとしてもね。私はフンと鼻を鳴らした。

その瞬間、あたりが夜のように暗くなった。夕立でも来るのだろうかと私は空を見上げるが暗くて雲も見えない。手に持った彼岸花の周りだけが赤く照らされている。私は思わず茎を握る手に力を入れる。
雨が降り出すわけではない。しかし空気は明らかに冷たくなり、私はぞくっとして身震いするが、怖いわけじゃないもん、とつぶやき何かに虚勢をはった。イライラしていたからだ。凹んでいる日だったら怖くなってすぐに泣いただろう。
私は彼岸花をかかげて歩き始めた。そこに暗闇から生まれたように黒揚羽が寄ってきた。私はアゲハチョウがとても好きなので嬉しくなり、暗さと怖さを振り切って、黒揚羽を連れてぐんぐん歩く。

やがて霧が晴れるように明るさが戻った。手にした彼岸花からは、熱も光も消えた。もうただの彼岸花だ。私はホッとした。
その彼岸花とキツネのお面を道の途中のお地蔵さまに供えた。
お地蔵さまに手を合わせるとほっとした。
そしてもう二度と、イライラして彼岸花を手折ったりしないと心に誓った。そもそもイライラしないようにしよう、と思った。
黒揚羽はずっと私を守るように飛んでいたが、家の前についたとき、空高く消えていった。

(了)


今回彼岸花の写真をみていたら、彼岸花には揚羽蝶がくるのだと知りました。彼岸花は蝶による受粉の必要がないのに蜜を用意してご馳走しているようです。そしてやってくるのは揚羽蝶だけで、それが何故なのかは分からないようです。
また「キツネノタイマツ」と検索すると彼岸花ではなくて不思議なキノコが出てきます。キノコも好きなのでキノコのお話でも良かったな…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?