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ラベンタ 2

「わたしもラベンタ欲しいなぁ」
昼休みにラベンタと会話する友達のマリノに呟いた。
「ライヒんちお母さん厳しいもんねぇ」
ラベンタをカバンにしまってマリノは答えた。
「真ん中のお兄ちゃんも中学に入ってやっとだよ?!うちのクラスだってほとんど持ってるのに、、、」
昼休み中、好きなように過ごすクラスメイトをぼんやり見渡した。
「またお母さんに頼んでみたら?それかお父さん、、それか上のお兄さんでもいいじゃん。」
「ん〜、、、。またお母さんに頼んでみる。」
母以外の人に頼んでも、結局のところ最終の判断は母なのだ。上の兄は今年18歳になり、この間部屋に置いてあったラベンタを盗み見たらアップデート中だったので、晴れて子供用の検閲ガイドが外されたのだと思う。でも、兄が学校にラベンタを持って行く素振りはないので母の言いつけを守っている様子だ。真ん中の兄も15歳になってラベンタを購入してもらったが、母の言いつけ通り学校や塾に持って行ったりはしない。
そう、うちにはラベンダに関する母の取り決めたルールが存在する。
私は小学校に上がるまでラベンタの存在すらほとんどよく知らなかった。マリノと仲良くなり、マリノは生まれた時に祖父母に買ってもらったと聞き、18歳までにはみんな買ってもらうのよ、なんてことも聞いた。マリノ以外のクラスメイトも持っている人は多い。学校の宿題も持っている人と持っていない人とでは少し違う。マリノが言うには、ラベンタが親の代わりになっていて、本読みや九九の暗唱の相手、添削の役割になり、確実に宿題をこなしたかどうかは、教師のラベンタと生徒のラベンタを繋いだネットワークで確認するらしい。ラベンタのことをほとんど知らない私をマリノは隠れ貧困層と見ていたらしいが、話をしてそうでないことを今では理解している。そう言うマリノは見るからにお嬢様だ。
小学校に入ってすぐ母にラベンタが欲しい、と頼んだ。母は私の目を見て「どうして?」と聞き、その顔があまりにも真剣で、皆が持っているから、とは言い出せなかった。母が私の宿題を見なくて良くなるし、知りたいことがあった時に兄たちに聞かなくても良くなるしと、とりあえず家族が良いと思える点をたどたどしく説明してみたが、母は「私はあなたの宿題を見るの好きよ、それにお兄ちゃんたちもライヒに頼って貰えるの嬉しいと思ってると思うよ。」と優しく微笑んで、話は終わってしまった。

学校が終わり家に帰ると兄が自室に篭っているようだった。ドアをノックすると返事が聞こえたのでドアを開けた。兄は家で勉強する時は、ラベンタをよく使う。どんな風に使ってるかよく分からないが、傍から見るとまるでラベンタに勉強を教えてるようにも見える。「俺の勉強の邪魔するとまた母さんに叱られるぞ」と笑顔で兄は言った。「ママはラベンタが嫌いなのかな?」と尋ねると、またその話か、とペンを置いて私の方に向き直った。「ライヒはこれのことどれくらい知ってる?」と自分のラベンタを手に取って聞いた。
「全然知らない。」と、言った。知っていることを言おうか考えては見たけど、この家で育った13歳の私のラベンタへの理解度は、全然とかほとんど、のレベルなのだと私を見つめる兄の目を見てふと思った。
「でも18歳になればみんな必ず持つし、クラスの子達も早い方が良いって親に言われたって。」と続けると、「ライヒは何を知りたいの?」と兄は尋ねた。私は、ラベンタのことを知りたかったのか、ラベンタを買ってもらう方法を知りたかったのか、母のラベンタへの考えを知りたかったのか、はたまた違うことを知りたかったのか分からなくなった。黙り込んだ私の頭を撫でて、下でおやつ食べておいで、と兄は優しく言った。

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