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赤

夢を見た。
仕事終わりに寄ったスーパーで買った弁当と缶ビールが入った袋を片手に部屋になだれ込んだ。ソファーとテレビの間に仕事着のまま倒れ寝そべるのが‘マキ’の帰宅後の習慣だった。ここのところ営業先への出向や新規開拓、部下の育成、雑務処理に追われて出突っ張りで家ですることと言えば食事と風呂と睡眠くらいだった。明日は久しぶりの休みだ、せめて溜まったゴミ出しくらいはしないと、七日分のゴミを袋に纏めたとこ

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青

「私の夢は◯◯ホテルでスイーツを作ることです。」
「え?!それだけ??」と私はお腹を抱えて笑った。これは、放課後私の大学入試の面接練習をユリに頼んで、一通り終わった時に息抜きにと専門学校への入学が決まっているユリの必要のない面接練習をした時のことだ。
「じゃあ、これ圧迫気味面接にするね。どうして◯◯ホテルなんですか?他じゃダメなんですか?」
いつもは歯切れの悪い喋り方をするユリがこの面接練習(遊び

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黄色

黄色

「こんなはずじゃなかったって思うことある?」
と、ユリは萩原に聞いた。
「ないね。逆にある?」
「うーん、今だね。」と苦々しく笑った。
伝票に名前を書きながらの会話は顔が見えなくて、それが助かったような惜しいような気持ちの狭間でホッとしてる気持ちが勝ってる自分を疎ましく思った。
「まあ、あんまり思い悩んでも良くないね。配達ありがとう、君にこれをあげよう」
明るい口調で伝票といつものマカロンを渡され

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緑

「最近よく思い出すことがあって。高三の時のマキちゃんの面接練習に付き合ってた時に、その息抜きでマキちゃんに面接風に聞いたことがあるんだけど、私が売り物になるケーキを作ったとしてどういう風に売ったらいいと思いますか、て言ってみたの」
「あぁ、マキ、経済学部志望だったから?経済学部って何やるかよく分かんなかったけど」
「そうそう、私もよく分かんなかったけどマキちゃんもよく分かってなかったのが面白かった

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紫

待ち合わせの駅前でキョロキョロしていると
「ユリ!」
とマキちゃんが駆け寄ってきた。既に懐かしさで心が揺らいだ。
「萩原、夕方から来るって〜」
出来るだけ穏やかに言った。数年ぶりに会ったように思えない親しみと、何年も会うことがなかった事実に違和感を覚えた。
「何で私たちずっと会ってなかったんだろうね、会わないどころかどこに住んでるかさえ知らなかったなんて。」
同じことをマキちゃんが考えていたことに

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白

マキちゃんは恋愛脳な上に顔が良いから、本人が望む限り彼氏いる状態が途絶えなかった。それでも高校時代は、彼氏より私や萩原といる時間が長かったはずだから、大抵のことは気にならなかった。だから、気付くのが遅れたんだとも思う。一度私が堪えたことと言えば、マキちゃんらしくない程に彼氏に入れ込んで三人の約束をドタキャンした時は、つい萩原に彼氏彼女ってそんなに良いの?と聞いてしまったことがあった。萩原は歯切れの

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