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ジョイス・キャロル・オーツ『邪眼』栩木玲子訳、河出書房新社

しばらく感想文を書いていないと、微妙に敷居が高く感じる。おまけにnoteの新エディターが使いにくい。わたしのPCだとトップの画像がアップしにくいのだ。(画像ってどうしても必要?)…ということで、かなり腰が重かったが、ついによっこらさと持ち上げて書き始める。

ある仕事で自分が当面やることがなくなり、ただ数時間待つだけになった。そのとき目の前にあったのがこの本。ジョイス・キャロル・オーツというちょっと変わった名前は知っていたが、読むのは初めてだった。数時間であっという間に読み終わった。癖になりそうな味だった。

この中編アンソロジーは「うまくいかない愛をめぐる4つの中篇」となっているけれど、中身はそんなヤワなものではない。男の暴力的指向、特に男が女に向ける力の支配を描いたものばかりだ。わたしは暴力なんて大嫌いな人間である。しかし、どこか暴力に惹かれる傾向がほんの少しだがあるのも確かだ(と、この本を読んで思った)。

特に最後の「平底トレーラー」は女性が幼いころから祖父に性的虐待を受けていたという話だが、祖父はあくまでやさしく、魅力がある人だったので、それが虐待だということを女の子は頭ではわからない。しかし大人になっても身体はそのことを覚えていて、男性とふつうにセックスできないのだ。最後にその根源を確認した彼女は恋人とともに祖父を呼び出す。恋人は祖父を殴打しつづけ殺すがその様子を彼女は止めずに見ている。祖父を殺そうとしているのは実は彼女自身なのである。こういうのを読むと、そんなひどい暴力を振るうのはまったく当然のことだと読者のわたしも思ってしまう。描かれるひどい暴力をどこかで歓迎してしまう。昔見た「リップスティック」という映画で、女優の姉が、妹をレイプした男を最後にライフル銃でカッコよく撃ち殺すのだけど、あのシーンが自分は好きだったということを思い出したりした。

いったん男の支配下に置かれてしまった女にとって、その事態を客観的にとらえるのは難しいものだ。男と女(と性と暴力)は複雑な問題だ。時間がかかるし、呪縛から逃げられない女も多い。恋愛って当事者同士の閉鎖空間のできごとだしね…。断ち切るためには、(比喩的な意味でも)ひどい暴力が必要になることもあるのだろう。

この人の小説、もうちょっと読んでみようか…。


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