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ジャネット・ウィンターソン『オレンジだけが果物じゃない』岸本佐知子訳、白水社Uブックス

だいぶ前に読んだのだけど、忙しくて感想文が書けないでいた。えーっと、イギリスの小説で、熱烈なクリスチャンの女性に養女として迎えられた作者の自伝的小説だった。熱烈なクリスチャンというと、アメリカのキリスト教原理主義を思い浮かべるけど、それほど狂信的でもないのかな。しかしイギリスにもこういう人たちがいるのだと知った。

主人公は母から聖書の英才教育を受け、将来は説教師にと望まれている。だが娘はあるとき自分がレズビアンだと気づく。それがわかったときの母との亀裂。教会のコミュニティからも排除されていく。

ただ、読んでいて、キリスト教教会を中心にしたコミュニティって、うまくできていて、特に疑問に思わない人には案外心地よい場所なのだろうと思った。日本の都会のように、貧困生活で誰からも救いの手が差し伸べられない社会よりは弱者にやさしそうだ。だが束縛や干渉を嫌う人にとっては息がつまる場所なのだろう。信仰はほどほどがいい。

母と娘の問題はいろいろたいへんだ。父と息子の問題は息子が<父殺し>をして生き延びるのだが、母と娘はそうはいかない。自分の夢を実現できず、娘に希望を託す母は、娘が希望どおりになることでもう一度自分が生き直せる気がするのだろう。娘を別個の人格と認めることが非常に難しい。この小説の母親も、エネルギーを宗教に向けるあまり、娘にも過度な期待をしてしまう。レズビアン問題がきっかけでついに娘は家を出る。だいぶたってから家に戻って来た娘に向かって母は当たり前のように普通に話しかける。ただし目を合わさずに。悪い人じゃないんだよなぁ。まったく母娘は難しい。

辛い話ともいえるが文章はあくまで明るくユーモラス。いろいろ文学的なアリュージョンがちりばめられていて、わかる人には楽しいと思う。「手を振っているんじゃない、溺れているんだ」とか、道が2本に分かれていて...なんてところでクスリと笑ったりした。

(またしばらく更新が途絶えます。)

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