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藤野千代『団地のふたり』U-NEXT

先月オーディブルを試しに聴いていたとき、この小説もなんとなく冒頭だけ流して聴いていた。とてもきれいな声の女性がさらさらと流れるように楽しそうに読んでいた。内容はあまりピンと来なかったのだが、今回紙の本を読んでみた理由はすごく簡単で、メルカリやヤフーオークションの話が出ていたから。実は年齢的なこともあって、そろそろ不要なものを処分しようと考えているのだ。今年のわたしの目標は「メルカリ、ヤフーオークションを始めること」!

そういう意味では参考になった小説だった。でもそれ以外では「なんだかなぁ」とすっきりしない。主人公の二人が仕事を持ちながらもあまり熱心に働いておらず、「ゆったりのんびり暮らしている」といえば感じがいいが、厳しい言い方をすれば「だらだらしている」。主人公の奈津子はイラストをたいして描いておらず、不用品を売ってその売り上げで食べ物を買ったりするし、友人ノエチは大学の非常勤講師だが、こんなにヒマな非常勤講師はいまどきいないはず。自分の研究などまったくしていないみたい。しょっちゅう奈津子のところに来て二人でのんびり(だらだら)している。でも、こういう暮らしはもっと老年になってからでいいんじゃないの。二人はまだ50歳なのだ。

二人が住んでいる団地は古くてもはや新しい住人は入らない。いつ閉鎖、取り壊されるかわからない。住民は老人が多く、若めの二人は雑用をして助けたりしている。なんというか、あたたかい、と言えばそうなのだけど、すべてが斜陽のやさしさ。その斜陽もほんとうに弱弱しい光だ。沈みかかっているいまの日本にはぴったりかもしれない。また、家族がうまく機能していない時代だから、つかず離れずの疑似家族みたいな二人のスタイルはほっとするものかもしれない。

まぁしかし、批判的に考えるのはわたしが何かしていないと不安になる、せかせかした性格だからだろう。おまけに転居が多かったのでまわりに古くからの友人もいないから、幼稚園から同じ団地に暮らしている二人はうらやましくもあるのだ。斜陽でもいい。けっきょくのところ、ちゃんと食べて、生きているのだから、人は自分が好きな生き方をすればいいんだよね。


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