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サンダー・コラールト『ある犬の飼い主の一日』長山さき訳、新潮社

こないだマキューアンの『土曜日』の感想を書いたけれど、その次に読み始めたのがこの小説だった。偶然にも、こちらも主人公の中年男のある一日を朝から晩まで描いたもの。マキューアンの方は主人公がエリートだし家庭的にも非常に恵まれていて、そこが気に入らない批評家もいたようだが、この犬の飼い主は離婚してひとり暮らし、中年太りだし、飼っている愛犬は老いて体調を崩している。そんな冴えない男が偶然に出会った女性に恋をする話。惹句によると、「ありふれた日常のしあわせを、つぶさに淡々と描きだし」たオランダの小説だ。

でも、思うのだが、「ありふれた日常のしあわせをつぶさに淡々と描」くことはなかなか難しいものである。この小説を読むとマキューアンとの力の差がはっきりわかるし、この手のフラヌ―ル小説の元祖であるジョイスやウルフがいかに天才だったかがわかる。実はわたしは退屈してしまい、一度は途中で読むのをやめかけた…。

たとえば、主人公の男は音楽を愛し、文学を愛するのだが、離婚した妻はどちらでもなかったらしい。だけど、人がつまらない音楽が好きだからって、高尚な文学や哲学を読まないからって、そんなの趣味の問題じゃないの…。そんな感じで彼に違和感を感じるところがけっこうあった。特に大きな出来事もない一日の意識の流れがこまごまと描かれる場合、主人公にあまり感情移入できないと読むのがしんどい。ただ老犬のことを案じている部分だけは、うちにも老いた猫がいるので共感できた。ちなみにこの犬はコーイケルンホンディエという種類で、大谷翔平選手が買っている犬と同じらしい。(大谷選手の犬を動画で見たがたしかにかわいい。でもどんな犬も、雑種の犬だってかわいいのだ。)

そんな具合で、わたしはいまひとつ好きにはなれなかったけれど、楽しく読む人もきっと多いだろうと思う。特に、コーイケルンホンディエを飼っている人はぜひ読むといいでしょう。



(うちの古いものシリーズ。がらくた好きのわたしが初めて買ったがらくたがこの猪口だ。もう30年以上前のこと。安いものだし、こういう印判の器はちっとも珍しくないのだが、若いわたしはこの雰囲気がステキだと思えたんだよなぁ。懐かしい。)





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