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柴崎由香『待ち遠しい』毎日文庫

相変わらずの低調な毎日。やるべきことをさぼって、その代わりどんどん本を読んでしまう。今日は初めての柴崎由香の小説。少し前にADHDについて書いたこの人の本『あらゆることは今起こる』を読んでから興味を持ったので。

舞台は大阪。ある家の母屋にゆかり(夫を亡くして東京からやってきた63歳)、その離れに以前からの間借り人の春子(恋愛に興味が持てない独身39歳)、近所にゆかりの親類にあたる沙希(ちょっとヤンキーっぽい新婚25歳)が暮らしており、この3人が特に仲が良いわけでもないが時に協力しあいながら暮らしているという話。と聞くと、このごろよくある疑似ファミリー的な話なのかと思ってしまいそうだ。だが、3人はべったりの仲良しでもないし、時に心の中で、時に声に出して批判し合いながら、一定の距離を保っている。ひょんなことから3人で旅行に出かけたりもするが、それも途中で若い沙希が不機嫌に先に帰ってしまったりする。彼女は貧しい母子家庭で育った、非常に短絡的な考えの娘だ。相手の気持ちを考えて自分の発言をセーブすることもできない。妊娠しても、自分が妊娠したという事実をうまく受け止めきれない。そのくせゆかりを便利に利用しようとする。

そのほか、職業不明で昼間っからぶらぶら暮らしている中年男が、近所ではこっそり怪しまれていたり、警察が家に聞き込みにきた沙希については冷たい視線が集まったり。まぁ、そういうものなんだろう。単純に「あたたかな絆っていいもんだよね」とはならない、一筋縄ではいかないストーリーだ。でもまぁ、それが現実だよな。

すらすらと読み終わった小説だけれど、どこか不満なのは、この「まぁこれが現実」という感想をさかんに抱かせることかもしれない。面白い連続ドラマ(ほんのり苦い)を見たような読後感なのだ。フラットで超読みやすい文体は最近の女性作家にはありがちだが、味のある文体を楽しめないさびしさも感じた。

ひとつ印象的だったの題名の「待ち遠しい」。奇妙に安定感のない変な題名だ。沙希の妊娠も含めていろいろなことがあった物語の最後に春子が、「年を取るのが待ち遠しくなるような感じに、年を取れたらええなぁ」とつぶやく。ほんとうに、そう思えたらいいんだけどね。辛い現実ばかりをつきつけられる人生だが、それを超えられる希望があればいいのに、と最後にちょっと思えた。




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