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絵画に惹かれて(4) - 魅力に気づく時(中編) -


今年の6月、約8ヶ月ぶりに美術館へ足を運んだ。

お目当ては「モンドリアン展」。

23年ぶりに日本でモンドリアン展が開催されたのだ。

モンドリアンといえば、この写真にある「コンポジション」や「砂丘」が有名であり、私自身もこれらの作品を見るのを楽しみに絵画展へ行こうと決めた。

絵画展へ行ったあとはおそらくそれらの作品のことが心に残るだろうなと予想していたのだが、実際に作品たちを目の前にして、私の心に響いたのは別の作品だった。

ひとつは、教会塔が夕日に照らされている作品。
もうひとつは、風車が月明かりによって浮かび上がっている作品だ。

この絵画展へ足を運ぶまで、私はこれらの作品を知らなかった。

まずは、教会塔が描かれている絵画について。

ピンクと緑・青が基調となっているこの作品は、実際に夕日に照らされた建物を写真に収めたものとは色調が違う。
しかし、私にはこちらの方がリアルに見えるのだ。

今年の春、私は西向きの部屋に引っ越した。

関東平野が広がり、それほど都会ではなく私の部屋より高い建物は近くにあまりないため、夕方は夕焼けがとてもよく見える。

遠くのビルが夕日に照らされている様子がとても美しくて、休日は夕方になるとよくベランダへ出て写真を撮ったりするのだが、そのときにうまく写真を撮ろうとしても実際に自分の目で見ている光景には叶わない。

だが、モンドリアンの描く教会塔はあのとき見た夕日に照らされたビルだった。
あのとき確かにビルはピンク色に見え、背後の空は少し緑がかって見えた。そう思えた。

彼の絵を見ながら、私の目の前にはあの日の光景が広がっていた。

そして、風車の絵に関しても同じような感覚になった。

私は夕方、日が落ちて徐々に暗くなってくる時間帯に散歩するのが好きだ。
色彩をまとっていた木々や建物が、藍色のグラデーションの効いた空を背景に切り絵のようになる時間帯。

その風景にいつも魅了される。


(写真は遠征先で散歩していたときに撮影したもの)

モンドリアンの描く月明かりによって浮かび上がる漆黒の風車。

わたしはこれに同じものを感じた。

あの惹き込まれる感覚は、目の前で作品と対峙しないとおそらくわからない。
周りのひとはそれほど立ち止まらずに次の絵画へと進んでいたが、私は動けなかった。

風車の迫力に圧倒され、
「そう、これ。こういう光景が好きなの…。」
と、この風車を描いたモンドリアンに話しかけたくなった。

先日、アメリカから一時帰国した高校時代からの親友と久々に会った。
美術館が好きで、本が好きで、舞台が好きで、音楽が好きで、建築が好きで…
同じような価値観を共有でき、違う感想を持ってもお互いにそのことを面白がれる大好きな親友だ。

彼女にこのモンドリアン展での出来事を話したら、
「確かに、画家がどこかの風景を描こうとするときはきっとその風景に心を動かされて魅了されているときだと思うから、自分の好きな光景が描かれている作品と出会うと、その画家と『好き』を共有できているみたいで嬉しくなる。」と。

あぁだからモンドリアンの作品と出会えたとき、わたしはあんなに嬉しかったんだ…と思った。

時間に終われ、スマホの情報の波にのまれ、、
その中でやっと空を見上げる余裕ができてこの美しさを共有したくても、なかなか周囲の人と好きなものが一致することは難しく、、

(先日散歩が好きだと話したら、そして公園でのんびりするのが好きだと話したら、おばあちゃんみたいと言われる始末。、)

だからこそ余計に嬉しかったんだろうな。

作家・原田マハさんがWOWOWの番組のなかで美術館へ行くことを「友達に会いに行く」と表現されていた理由が分かったような気がした。

このモンドリアンの作品との出会い、気づきがあってから、絵画というものがすごく身近に感じられるようになった。


そして、先日「甘美なるフランス展」へ行ってきた。

数年前まで印象派の絵の良さがあまり分からなかったのだが、先日のモンドリアン展での出来事や、自分の好きな心惹かれる光景は写真よりも印象派と呼ばれるひとたちの描く作品の方がリアルだと気づき、印象派の作品に心動かされるようになった。

改めてこの絵画展で、心惹かれる作品は自分の惹かれる光景が題材になったものが多いと気づいた。

そして、気候によって風景の見え方がどう変わるのかということに興味を持った。

先述したように、わたしは今年の春に自然豊かな関東平野の広がるところへ引っ越した。
そしてよく散歩をしていると、この場所と東京、標高が高く山に囲まれた実家では空気の色が違うんじゃないかと思うようになった。

特に今住んでいる場所は、これまで暮らしてきた土地と「色」が違うのだ。

なんとなくオレンジがかって見える。
特に、昼過ぎから夕方にかけて。
引っ越してから心に余裕ができたという、わたしの心情変化が影響している可能性もあるが、どことなく空気が柔らかいのだ。

そして、この甘美なるフランス展で、「あっ!!」と思った。

カミーユ・ピサロの描く風景の色合いがすごく似ているのだ。空気が柔らかくて、どこか明るい雰囲気のある風景。


彼の描く作品を見て、実際に私もフランスを訪れたくなった。

(ちなみに印象派の画家が描くフランスの風景は、彼以外の作品においても私の今住んでいる土地を彷彿とさせる雰囲気を持つものが凄く多い。)

私の住んでいる土地と、フランスに降り立った際に感じる気候の感覚は似ているのだろうか…
風景のまとう色彩は似ているのだろうか…

とても気になっている。

時勢が落ち着いて気軽に旅行へ行ける日が来たら、これまで見て魅了された絵画が描かれた場所へ行きたいと思う。

時代は変化しているとはいえ、きっとその画家たちが味わったものを共有できるはずだから。


そしてこれからも私は
『好き』を共有できる画家を探しに、
出会いたい風景を探しに美術館へ行くのだろう。



次回は『絵画に惹かれて』ラストの後編。

有名どころとされる絵画展以外の展覧会、そして常設展へ足を運びたいという気持ちが高まっていることについて、書いていこうかなと。

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