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ある営業マンの話から

 最近は私が在籍する零細な会社にも電話での営業が良くかかって来る。さすがに飛び込み営業は無くなったものの、営業の者が地域を回っているからと先に連絡があってから始まる営業は後を絶たない。大概はつれなく、偉くもないのに見えないことをいことに上から目線で断るようにしている。でも時には聞いてもいいかと思う案件もないことはない。例えば、近いところではこんなことがあった。

 例によって電話営業でアポを取り付ける。その流れで販売業者が来て県外訛りの流暢なプレゼンを準備した資料に書き込みまでしながら始める。要所要所にここまでいいですかと確認も入れる。そして費用対効果も理解されたと思いますが、如何いたしましょうと笑顔で迫って来る。何か目に見えない勢いに圧されている感じはあるものの、業者のおしゃる通りだと判断して導入を決めた。簡単な確認書にサインをすると、別の日に工事業者が来て機器の設置、設定が終わった。

 さらに後日、最初にプレゼンをした機器販売業者の営業が契約書を持ってやってきた。初回にした説明の最終確認であるらしい。マニュアルに決められたトークで再び話し始める。適宜に準備しているアドリブを使って、商品の仕組みと得られる効果とかかる費用の妥当性を滔々と述べて行く。お客である私たちの理解度の確認も折々に差し込みながら、伝えた話をちゃんと聞いたのか、専用の用紙に日付を書かされチェックを入れさせられる。時に理解が追い付かない話に、後戻りして説明を噛み砕かせる。最後に契約書に署名押印をする。

 さて、控え書類など仕分けながら心なしか今までとは1ランクくらい解けた表情で、私ごとですがと、聞いてもない話が始まる。別府観光の話に就職が決まった娘の話と話題も表情も砕けながら、聴いているこっちが、早く終わって欲しいのにと時間を気にしてみるほどに、契約が終わった達成感に違いない一人弾んだ心持で、話は奥さんと予定している旅行の話に流れて行く。これは困ったと意味もなく椅子から立ち上がって、半ば強制的に佳境を迎えて貰うことにした。ちょっと残念そうな顔で去って行く後ろ姿に、お願いだからスキップはするなよと念を送ってみた。

 翌日、リース会社から契約確認の電話がかかって来た、諸々の確認を終えて、他に何かあればと言うので聞いてみた。この契約で機器販売業者、取付け工事業者、おたくのようなリース屋さん、どこが一番儲かるのかなと聞いてみた。苦笑いしながら、うちはリース手数料を頂くだけですからと返って来た。やっぱり機器販売業者が儲かるんだろうか。うちは目には見えない日々の効果に期待するしかないか。

 いやはや、いろんな営業の人が来る。半分はほぼ一方的に営業トークを捲し立てる人、営業慣れし過ぎているのか、立板に営業トークが流れて、聞く方の耳に止まることを知らない。そこへ行くと若い新人さんのしどろもどろの営業がいい。もう何とか助けてやりたい。仕事が続かないならうちで雇ってやるよと勧誘まがいのエールを送ることもある。

 最後に忘備録的に書き残しておきたい思い出の営業の人たちのことを少しだけ。もう20数年前の話、外国船停泊中のワシントン条約違反の毛皮販売の強面のおじさん、来るなり動物の毛皮を何枚も広げられ、社長さんポケットマネーで1、2枚どうですかと言われた時には怖くなってしまって、丁重にお断りをして退散願った。続いては、先物取引の強烈に圧の強い営業マン、電話でのしつこい営業に最後はお互い激高した言い合いとなり、二度とかけて来るなと叩き切ってやった。他にも、落下傘部隊よろしく駅で降ろされた若者の物販営業、これが年に1回くらい来る。海外の子供たちの支援活動をしているとかなんとか、嘘っぽいけど、労いながら付き合いで買ってやる。

 これで最後、相談があるのですとやって来て、私はヘルパーが出来るでしょうかと言った相談もそこそこに、今日はとてもいい人に出会えました。あなたは素晴らしい人ですね。実はと切り出された話が宗教の勧誘、まあ喋る喋る。今の世の中はおかしいですよね。一緒に唱えませんかと、もう勘弁して下さいと頭を下げて帰って貰った。その後も忘れた頃に電話はかかって来る。いやはや営業は大変だ。
 
 折角なので最近の電話営業も例をあげると、こんな感じだ。求人広告に事業資金の融資、新電力にLEDにビジネス誌掲載の取材営業まで、こちらの忙しさに関係なく飛び込んで来る。以上、一人の営業マンをきっかけに溜まっていた営業の人たちとの思いでが流れ出してしまった。そうだ37万円の掃除機に17万円のコンピューターミシンの話は我が家の訪問販売の話か、それはまた別の機会で話そう。まだまだ、他にもあったけどこのくらいにしておこう。20230921

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