恋愛と3.11

 3月11日の14時46分に、勤め先ではアナウンスが流れ、みんなで起立して一分間黙禱しました。

 2011年のことだからもう九年前ですね。
 あの頃は遠距離恋愛をしていました。

 特急をうまく乗り継げば一時間強で会いに行ける程度の遠距離で、週末にやりくりして会っていたのだけれど、なにかと不満が募りました。
 互いの仕事はそれぞれの拠点にあり、互いに一生働くことに自分の重心を置いていたから、会えないことも、会うと働くために温存しなくてはならない体力が減ってしまうといった焦りも含めて、解決できる見通しは何もありませんでした。
 それならなぜ付き合い続けていたのかといえば、その時はとても好きだったから、としか説明できません。

 いろんなことによく気がつき、親切で手先が器用で、謙虚な人でした。
 本当にね、その人に悪いところは何も無かったんです。
 ただ互いの生活の基盤に距離がありすぎたのと、お互い、相手のことよりも自分の生活の基盤の方が大切だったということです。

 3.11は金曜日でした。
 その週明けの新聞で、福島の原発事故が報道されました。あの時の戦慄は忘れられません。忌野清志郎が安全な牛乳を飲みたいと歌ったあの曲や、山岸涼子のコミックス『パエトーン』を思い出しました。
 ちゃんと警告されていたはずなのに、日本の科学技術は世界一だと信じきっていたから、こうなってしまったのだと身がすくみました。

 こんな時大変な時に彼にそばにいてもらえないという腹立ちと、こんな大変な時に彼に煩わさせられなくてよかったという安堵。
 その両方に引き裂かれて悩みました。どちらも私のエゴでした。

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