見出し画像

フローライト第七話

翔太から電話が来た。散々ラインを無視していたのだ。どうしようと思ったけれど出てしまった。

「もしもし?」と出ると翔太が「ごめん、電話しちゃった」と言った。

「明希は何であそこにいたの?」と聞かれる。

「あのバンドのボーカルの人が彼氏なの」と言った。隠す気はなかった。

「えっ、そうなんだ。天城利成だろ?」

「知ってるの?」

「ちょっと有名人だよ。ユーチューブで」

「そうなんだ」

「明希はどうやって知り合ったの?」

「幼馴染で・・・」

「え?天城と?」

「うん・・・」

「あ、それってまさか前に言ってた再会した幼馴染?」

「うん、そう」

「そっか、いつからつきあってんの?」

「秋くらいから」

「そうなんだ」

そこで一旦沈黙になった。それから翔太が言う。

「俺さ、専門やめるかも」

「えっ?何で?」

「どうも合わないっていうかさ・・・」

「そうなの?でもせっかく今まで頑張ったのに」

「そうなんだけど・・・何かね。・・・で、俺も趣味だけどバンド組んだりしてて、そのつてでさ、こないだはライブ行ったんだ」

「そうなんだ、全然きづかなかった」

「結構人いたからな。明希は〇〇〇バンドまだ好き?」

「うん、好きだよ」

「そっか。俺も・・・」

「うん、翔太音楽やりたいって言ってたもんね。じゃあ、音楽の道に行くの?」

「いや、バンドは趣味。俺は作曲とかしてるからその方がいいんだよ」

「作曲?すごいね」

「ま・・・・・・」

そこでまたお互いに沈黙・・・。

「あのさ・・・明希、ごめんな。あの時は」

翔太が先に口を開いた。

「・・・いいよ、もう」

「・・・会えない?」

「えっ?」

びっくりして固まった。

「彼氏いるのはわかったけど、つきあってほしいとかいうんじゃないから、ちょっとだけ」

「・・・・・・」

「ダメ?」

翔太の意図を図りかねた。会ってどうするの?

「その・・・会ってどうするの?」

「どうもしない。謝りたいだけ」

「それならもういいよ」

「じゃあ、一回だけお茶してよ」

「んー・・・」

「一回だけだからいいだろ?」

「んー・・・ま・・・一回だけなら」

「良かった。じゃあ、今度の土曜日は?」

「午前中ならいいけど・・・」

午後からは利成のアトリエに行く約束だった。

「わかった。サンキュ」

 

土曜日の日の午前、翔太とよく行っていたカフェで待ち合わせた。少し遅れて行くと、翔太が先にいて待っていた。

「遅れてごめん」と言うと、「いいよ。コーヒー?」と聞かれる。「うん」と言うと、「待ってて」と翔太がコーヒーを買いに行った。

翔太は二人分のコーヒーを手に戻ってきて「はい」とコーヒーの入ったカップをテーブルに置いた。

「あ、お金・・・」

「いいよ、おごり」

「でも・・・」

「俺が無理言って来てもらったんだからいいよ」

「ん・・・ありがと」

それから翔太が看護師は自分に向いてないという話や、親と喧嘩して今大変だという話をしていた。

「明希は専門の方は順調?」

「・・・まあ・・・」

「そっか、良かったな」

「うん・・・」

話が途切れて時刻を見るともうお昼を過ぎていた。そろそろ行かなきゃと思い、「じゃあ・・・」と席を立とうとした時にいきなり言われた。

「明希、俺のこと許してくれない?」

「え?」

(許すって・・・)と思った。ほんとのところ利成との交際であの時のことはほとんど思い出さなくなっていたのだ。

「もう無理かな?」と翔太が眉を寄せていた。

「許すっていうか・・・もうほんといいよ。翔太が悪かったわけじゃないんだし・・・」

「いや、俺が悪かったよ。あの後ずっとそう思ってた」

「うん、だからもういいよ。私の方は平気だから」

「天城がいるから?」

「え?その・・・ま、そうかな」と答えたら翔太がちょっとうつむいた。

「じゃあ」ともう一度言って立とうとしたら今度は腕をつかまれた。

「俺とはもう絶対ダメ?」

「俺とはって?」

「もう俺のところには戻ってきてくれない?」

「え?」とまた驚く。

「少しも望みない?」

「だって・・・翔太は・・・」

そこまで言ってからもう一度椅子に座って声をひそめた。

「私ができないのがダメだって・・・」

「ん・・・ごめん。反省してる」

「反省なんて必要ないよ。私が悪いんだから」

「いや、俺が・・・ゆっくりやろうなんて言っておいて・・・ひどいことした」

「いいよ。大丈夫。翔太はもう気にしないで」

「・・・天城とは?」

「何?」

「できてんの?」

「・・・・・・」

どうしようかと思った。さすがに翔太には関係ないじゃないかと思って黙った。

「ごめん、もう行くね」と立ち上がると、翔太も立ち上がって「俺も出るから」と言った。

店から出て「じゃあ」と言った。もうこれで終わり・・・翔太とはと思った。

「ラインもダメ?」

だけど更に食い下がってくる翔太にちょっと呆れた。

「ラインしてどうするの?」

「たまに話したいじゃん」

「・・・ラインだけ?」

「うん」

「それならいいけど・・・」

「良かった」と嬉しそうな翔太を見て出会った頃を思った。あの時も確かこんな笑顔で・・・。

 

利成に言うべきか悩んだ。元カレとラインだけでも何か気分悪くないかな・・・。そもそも何で自分は承諾してしまったのだろうと少し後悔した。

結局利成に言った。言ったら普通に「いいよ」と言われた。

「いいの?」

「明希がしたいんでしょ?」

「え、違うよ」

「じゃあ何でオーケーしたの?」

そう聞かれてほんとにそうだと思った。

「そうだよね・・・今からでもブロックしようかな・・・」

“ブロックしなよ”と利成に言って欲しかった。そしたらすぐにできたのに・・・。

「明希が考えて答えを出しなよ」

「・・・・・・」

利成はいつも否定しない。けど、否定しないというのはすべて肯定しているというわけではなかった。利成なりの答えは持っていた。でもそれを押し付けたりしない。自分で考えてというのだ。

結局翔太のラインはそのままになったまま、季節は再び春に移行していった。



専門学校二年目。明希は二年のコースを選んでいたので今年で卒業だ。でもその前に二つの国家試験があった。

(あー・・・どうしよう・・・)といつものように悶絶する。

でも今年で卒業して何とか独り立ちしたかった。明希は家を早く出て一人暮らしをしたかったのである。それというのも、父が近頃再婚した。新しい女性は父の妻としてはとても相性が良いらしいが、明希とは最悪だった。

夜にスマホが鳴った。利成かと思ったのに翔太からだった。

<こんばんは。何してる?>

翔太と再会してからこうやってしょっちゅうラインがくる。来て欲しい時は来なくて、来なくてもいいとなるとこうやってしょっちゅうくるとはこれ如何に・・・。

翔太はすごく好きだったけど、それ以上に今は利成が好きだった。翔太に返信しようとしたら利成からラインが来た。

<近くにいるよ。出てこれない?>

(え?)とすごく嬉しい。でもと鏡をみたら酷い顔だった。<行けるよ>と返事してから急いで準備をした。玄関で父の妻と会ったので「ちょっと出かける」とだけ伝えた。この女性に言えば父にも伝わるだろう。

表に出ると少し離れたところに利成の車が止まっていた。急いで車まで行って中をのぞいたら利成が中から助手席のドアを開けた。

「ごめんね、急に」と助手席に乗ると言われた。

「ううん、全然」

「夕食はもう済んだ?」

「うん、利成は?」

「俺はまだ」

「じゃあ、どうする?」

「適当に買って帰るよ」

「そう?」

スーパーに寄って利成と一緒に買い物をしてからアトリエに行った。利成がスーパーで買った総菜をテーブルに並べてからキッチンに入った。

「明希、ワイン飲む?」

「あ、うん」

利成がグラスとワインを持ってきてテーブルに置いた。

「ワイン、買ったの?」

「いや、貰い物」

「そうなんだ」

二人で乾杯をする。そういえば今年で二人共二十歳だ。

「利成って誕生日いつだっけ?」

「三月だよ」

「え?三月?何日だったの?」

「十日」

「え、そうだったの?何もあげれなかった」

「いいよ」

「でも・・・」

「明希の誕生日は十一月でしょ?」

「うん、何で知ってるの?」

「幼馴染だから」と利成が笑っている。

「えー・・・私は忘れてたのに・・・今からでも何かあげるよ。何がいい?」

「んー・・・大丈夫」

「大丈夫って?」

「今日明希からもらうから」

「何を?」

「明希自身」と言われてハッとした。あれから少しずつ確かにリラックスできるようになってはいた。利成はいつも優しいキスと、優しく触れてくるのでだいぶトラウマも解消できた気はする。

だけど・・・とまだ不安はあった。

「大丈夫だよ。無理にはしないから」と利成が言う。

(あー・・・どうしよう・・・)

でもそうだよね、やってみなくちゃわからないよね・・・。それにこうやって変に緊張するのがいけないんだとも思う。軽く考えなきゃ・・・。

シャワーを浴びてベッドに入るとやっぱり緊張してきた。利成が部屋に入って来てベッドに入ってから照明を少し落とした。

「あんまり暗くしない方がいいと思うから」と言う。暗い方が発作が起きやすいと利成が以前言っていた。

ドキドキと心臓が鳴って来た。心では全面的に受け入れているというのに、何で身体だけ違うんだろうか?と素朴な疑問が湧いた。

利成が口づけてくる。しばらく優しいキスだけ繰り返してくるので、だんだんうっとりしてきてしまった。

今日は実はスカートを履いたまま下着だけ先に脱いでいた。どうやらズボンと下着を脱がされるとスイッチが入るのでは?と自分で勝手に思ったのだ。だからスカートはそのままにしてと頼んだ。

時間をかけてゆっくりと利成の身体が明希の下半身に移動していく。スカートをめくられて利成の唇が明希の敏感な部分に当たった。口でというのは利成が考えた。指や手だと刺激が強すぎてトラウマが発動しやすいのではと・・・。

(あ、でも・・・別な意味で・・・)と足をモジモジとした。

しばらく利成の舌が明希の敏感な部分を刺激した後、利成が布団の中でズボンを下ろした。それも見えない方がいいと利成が考えた。

ゆっくりと利成が明希の中に入って来た。

(あ・・・)と別な意味で声が出そうになった。

「大丈夫?」と聞かれる。

「大丈夫・・・」とつむっていた目を開けたら利成の顔が近くにあって恥ずかしくなってまた目を閉じた。

恐怖心はなかった。別な意味での緊張はあったけど、少なくとも前のような感じはなくなっていた。

(あ・・・何だか・・・)

ちょっと感じてしまう・・・。

手を伸ばしたら利成がその手に口づけてくれた。だんだん利成の動きが早くなっていって明希の上に射精した。

「明希、大丈夫?」

少し息を切らした利成が言う。明希は目を開けて利成を見て「大丈夫」と答えた。

「良かった」と利成が口づけてきた。

その日は利成と手をつないで寝た。すごく幸せだった。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?