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フローライト第九話

利成のバンドがインディーズデビューをした。そのバンドの中には翔太もいた。利成は明希の元カレだと知っていて翔太を入れた。何故だろう・・・まったく気にならないってことかな・・・。

デビューをしてから三か月、もう季節は冬に移行していた。

利成と明希のアトリエにはたまにバンドの仲間が集まった。仲間内での曲作りやライブの打ち合わせなどをしているときは、明希は寝室に引っ込んでいた。邪魔するのが嫌だったからだ。

その日は打ち合わせ兼軽く飲もうということになって、アトリエにお酒を持ち寄って皆が盛り上がっていた。利成が「明希も一緒においで」と言ったけど、遠慮したのとやっぱり男性ばかりのところにいくのが怖かったので、寝室に引っ込んでいた。

スマホでユーチューブを聴いているとドアがノックされたので明希は立ち上がってドアを開けた。

「あ・・・」

利成かと思ったのに翔太が立っていた。すごく遠慮がちに「ちょっといい?」という翔太。

「うん・・・」

そういうと翔太が部屋の床に座った。少しお酒の匂いがする。

「だいぶ飲んだの?ていうかみんなは?」

「飲んでるよ。俺はそうでもないけど」

「そうなんだ・・・利成は?」

「天城もさほど飲んでないんじゃないかな。他の奴らがべろべろだから」

翔太が少し笑った。

「そう・・・」

「明希もこっちに来ればいいのに」

「ん・・・でも・・・」

「でも?」

「ちょっと怖い・・・」

「怖いって?」

「男性ばかりのところが・・・やっぱり完全に平気になったわけじゃないから・・・」

「そう・・・何聴いていたの?」

翔太が明希のスマホにつけられているイヤホンを見ている。

「ユーチューブで・・・その・・・自分の・・・」

「え?何?聞こえなかった」

「“自分の”という言葉がひどく小さくなってしまった。つきあっているときは完全に隠してたけれど、もういいかなとも思う。

「私が自分でカバーして出しているユーチューブの聴いていた」

「えっ?明希の?」

「うん・・・」

「え?明希が歌ってるの?」

「うん・・・」

「聴かせて」とスマホについてるイヤホンを翔太が耳に入れたので、明希は自分のユーチューブを再生した。

翔太が聴いている。結構真剣な顔で聴いたあと、感心したように翔太が言った。

「何、これ。うまいじゃん。何で教えてくれなかった?」

「え、だって・・・そんなの誰も聴きたくないでしょ?」

「そんなことないでしょ。こんなうまいのに」

「そうかな」とうつむいて顔を赤らめて。お世辞でも褒められると嬉しい。

「明希にこんな特技あったんんて・・・意外だな」

「でも私も翔太があんなにギターうまかったなんて知らなかったよ」

そう言ったら翔太が笑顔を作ってから言った。

「元々作曲はやってたんだ。実は兄貴が音楽系の仕事しててさ」

「そうなんだ。知らなかった」

「俺も実はユーチューブやってたりして」と翔太が笑った。

「そうなの?聴かせて」と明希が言うと「えーどうしようかな」と翔太が言った。

「だって私の聴いたじゃない?翔太のも聴かせてよ」

「・・・いいけど、ちょっとだけキスさせて。そしたら聴かせる」

「えっ?」

身体が固まった。何で急にそんなこと言うのだろう・・・。

明希が黙っていると、翔太が唇を近づけてきたので後ろに後ずさろうとしてベッドにぶつかってしまった。

(酔ってる?)

みんなお酒を飲んでいる。翔太もたくさん飲んだのかも・・・。

「翔太、冗談やめ・・・」

ガバッと唇を塞がれて身体が固まった。アトリエには利成もいるのに、そんなことをしてくる翔太が信じられなかった。

翔太の胸のあたりを押し戻して唇を離そうとしたら、無理矢理また唇を重ねてくる。絶対酔ってると思った。

「やだって・・・」

少し恐怖心が走った。つきあっているときはキスなら大丈夫だったのに今は怖い・・・。押し戻した手をつかまれてまた口づけられた。明希が顔を背けようとしたら、手で顔を押さえられた。

翔太の身体を押し戻そうとつかまれている手を振りほどこうとしたのに、翔太にがっちりつかまれていて振りほどけなかった。本格的に背筋に恐怖が上がってくる。唇を離した翔太が抱きしめてきた。

「やだ・・・離して・・・怖い・・・」

「何だ、やっぱ治ってないんだ・・・」

翔太がそう言って明希から身体を離した。

「じゃあ、天城としたっていうのも嘘?」

「・・・・・・」

もう声が出なかった。足が震える。

「明希?」

(怖い・・・)

翔太が身体を動かした時、反射的に立ち上がってドアを開けて廊下を走ってアトリエのドアを開けた。中にいたバンドの仲間の男性と利成がびっくりしてこっちを見た。利成を見た瞬間涙が溢れて走っていって利成に抱きついた。

「明希?どうかした?」

利成が言う。その時アトリエに翔太が入って来た。

「ちょっと夏目、彼女に何かしたんじゃないの?」とバンドの仲間の一人が言った。

「何もしてないよ」と翔太の声を背中で聞きながら怖くてまた利成にしがみついた。

「明希、ちょっとおいで」と利成に言われて立ち上がって支えられるようにしてアトリエを出て利成と寝室に入った。

ベッドに座らされて利成は床に膝を立てて明希の顔をのぞき込んできた。

「何あった?」と聞かれる。でも怖くて言えなかった。忘れていた恐怖心で背筋がざわざわとしている。

「明希、夏目に何かされたの?」

「ううん・・・」

怖かったけれど、翔太のことを言ってバンドがおかしくなるのが嫌だった。

「ほんとに?」

「うん・・・」

「正直にいいなよ?我慢しないで」

「うん・・・大丈夫・・・」

「・・・・・・」


その日は利成がバンドの皆に今日は帰ってと言っていた。いつもなら遅くなった時は泊まることもあったけれど。

利成と一緒にベッドに入ったら「明希、もう一回聞くよ?」と言われた。

「ほんとに何もされてない?」

「うん・・・」

「・・・・・・」

怖かったけど利成のために我慢した。自分のせいでせっかくうまくいっているバンドがおかしくなってほしくなかった。けれど二日後の夜、結局はそのことを利成に言うはめになった。

夜に利成が求めてきた時に、またあの治っていた恐怖心が復活したのだった。

「ヤダ!怖い!・・・」と身体がけいれんした。前よりひどかった。

最初の時にしてくれたように利成が「大丈夫、大丈夫」と言いながら肩をさすってくれた。それからハーブティーを入れて持ってきた。

それを一口飲んで、ようやく身体のこわばりが取れてきた。

「やっぱりされたんだね」と言われた。

「うん・・・」

もう隠せなかった。

「何された?」

「キス・・・逃げたんだけど押さえられて・・・」

「そう」と利成がため息をついたので明希は顔を上げて利成を見た。呆れられたと思ったのだ。けれど利成は明希を抱きしめながら言った。

「明希、もう我慢しないで」

「ん・・・」

「バンドのやつはもうここに呼ばないよ」

「・・・・・・」

「後、夏目はやめてもらう」

「えっ?」と利成の顔を見た。今までにないような厳しい顔をしていた。

「元カレでもギターの腕は確かだったからいいと思った。でもそのせいで明希に怖い思いさせちゃってごめん」

「でも、ギターの人いなくなったら・・・」

「大丈夫、何とかするよ」

「でも、それじゃ翔太が・・・」

「明希、夏目のことは彼自身が何とかする。自分が蒔いた種なんだから」

「でも、翔太もバンドが好きで・・・」

「うん、わかってるよ。でもバンドのことより俺は今、明希のことが大事」

「ごめん、私が悪いの。翔太のこと外さないで」

「明希・・・」

利成の言うことはよくわかった。けれど自分のせいで翔太の道がふさがれるのが嫌だった。

 

でも結局翔太はやめた。利成が言うには自分からやめたという。明希は翔太にラインをしてみたけど返信はなかった。

(翔太・・・)

涙が出た。自分はまだ翔太が好きなんだと気づいた。

どうして自分はこうなんだろう。自分がこうじゃなかったら翔太ともうまくいったのに・・・。

(翔太・・・ごめん・・・)

泣きながらもう一回ラインを送った。

<翔太、ごめんね。ほんとにごめん・・・私、ほんとは翔太のことが・・・>

そう送ったら<明希、大丈夫。心配しないで。俺が悪かったんだから>と返信がきた。

<翔太、ほんとはね、翔太が好きなんだよ。ごめんね。変な私で>

<俺も好きだよ。明希のこと離しちゃったから俺のせい。気にしないで、バンドやめてもなんとかやってく。作曲もあるし、他のバンドからも誘いがきてるから>

<ほんとに?誘いがきてるの?>

<うん、だから気にしないで。明希、また少し時間空けよう。俺も頑張ってやってみるから。また必ず連絡する>

涙が溢れた。翔太と二度も別れなきゃならないなんて・・・。再会しなければ良かったと思った。

 

そして月日はどんどんと流れていった・・・。


二年後、利成は大学を卒業した。その少し前から利成はソロデビューしていて、バンドの方はやめていた。明希は仕事を在宅でしていた。それは・・・。

「ただいま」と利成がいつもよりだいぶ早く帰宅した。

「おかえりなさい」とキッチンから明希は顔を出した。

「大丈夫なの?」

「大丈夫」と笑顔を返した。

「でも無理しないで」と利成が言う。

「うん」

明希は今妊娠十六週目だった。利成は明希と結婚するつもりだからと言った。でも今は利成との関係は表に出さずに隠していた。というのも、まだデビューしたてで、いきなり結婚してて子供がなんていうのはやっぱりマイナスだと所属事務所からの指示だった。

「籍だけはやっぱり先に入れよう」と利成が食事をしながら言った。

「ん・・・」

何だかほんとにいいのかなと思ってしまう。

「時間外でも受け付けてくれるらしい」

「そうなんだ」

「必要な書類先にそろえるから」

「うん・・・」

「・・・明希?」

「え?」

「聞いてる?」

利成にそう言われてちょっと焦った。何だかいいのかなとぼんやりとしていたのだ。

「聞いてるよ、もちろん」

「・・・・・・」

 

翔太からのことでまた以前のトラウマが復活した後、利成がまた一から始めてくれた。しばらくは何もしないで明希の気持ちがリラックスするまで待ってくれた。

ところが今回はわりと厄介だった。落ち着いたかなと思っても、いざとなるとまた恐怖心がこみあげてくるのだ。

半年ほどたっても元に戻れなかった時、さすがの利成もため息をついた。

「ちょっとっていうかだいぶ、夏目の奴を恨んできたよ」

そんな愚痴もこぼれた。

明希は利成に悪くて、もう別れてくれてもいいと何度か言った。けれどその度に「何、言ってるの」と笑って取り合ってくれなかった。

季節がもう冬の声を聞きそうな時、利成が「後ろからしてみてもいい?」と言った。

「えっ・・・」

「その方が明希はリラックスできるかも?試していい?」と言われた。

「うん・・・」

「じゃあ、まず肩揉んであげるね」と利成の手がゆっくりと身体をほぐしていく。

「気持ちいい?」と聞かれて「うん・・・」と答えた。

(あー・・・気持ちいいかも・・・)

明希がリラックスしてくると利成がうなじに口づけてきた。それからゆっくり背中をたどって下半身まで降りていく・・・。

トラウマが復活して一年近く、利成は辛抱強く色々リラックスする方法を考えてくれた。そしてこの時も利成の言う通り、うつぶせの方がリラックスできた。おまけに後ろから利成が入ってきた時、明希は思いっきり感じてしまった。

なのでその時は今までで一番盛り上がった。だって利成が「明希、中に入れていい?」と言ったのだから・・・。

「ん・・・」とわけがわからないまま返事した。

そしてなんとその一回で妊娠してしまった。元々妊娠しやすい体質なのだろうか?

生理が遅れて二か月経った時、明希は利成に相談しようと思った。

「あのね・・・」となかなか切り出せなかった。

「何かあった?」といつも通りの優しい声に励まされて思い切って言ってみた。

「生理が遅れてて・・・」

「えっ?」と利成も驚いている。

「その・・・どうしよう」

「どうもしないから病院行っといで。一緒に行く?」

「い、いい。一人で大丈夫」

 

医者がもうすぐ十週目に入るところだと言った。その日病院からの帰り道、どうしようかと悩んだ。利成はまだ学生でしかもソロでメジャーデビューする予定だった。

(あーどうしよう、どうしよう、どうしよう・・・)

本気の悶絶・・・。

「どうだった?」とその日の夜帰宅した利成に言われた。どうしようと思いつつも、嘘をつくわけにはいかなかった。

「十週に入るところだって・・・どうしよう・・・」

明希が遠慮がちに言うと、「そうなんだ」と利成は意外に落ち着いた声を出した。

「じゃあ、身体大事にしないと」と言うので、明希は少し驚いた。きっと困ったねとかそういうことを言うだろうと思っていたからだ。

「でも・・・」

「でも?」

「だって・・・困るでしょ?利成」

「何で?」

「だって・・・」

「困らないよ。明希をここに呼ぶときに明希のお父さんに言ったじゃない。結婚前提だから許して欲しいって。ちょっと早まっただけだよ」

「・・・だけど、利成はこれから・・・」

「俺のことは心配しなくていいよ。そもそも俺の責任だし」

「そうじゃないよ、私が変な恐怖症でできなくて・・・それで・・・」

「でもできたでしょ?」と利成が笑顔を作る。

「・・・そうだけど・・・」

「大丈夫だよ」

 

子供ができたと父に言ったらそんなに驚いた風ではなかった。逆に「それ見たことか」といった感じにため息交じりに言われた。

「利成君はまだ学生だろ?どうする気だ?」

「結婚するって・・・籍もいれて・・・」

「何だか音楽でデビューするとか聞いたぞ?それならお前は邪魔だろ」

「・・・ん・・・でも、利成はそうするって・・・」

父は呆れたような顔を見せた。

「明希のこと思うから言うけどな・・・ああいう世界に利成君が行くなら、この先も覚悟しておいた方がいいぞ。いつ捨てられるかわからないからな」

「・・・うん・・・」

 

父にそんなことを言われて、そして現在に至る。

今まで利成とつきあって明希はずっと不思議に思っていたことがある。利成はどうしてほとんど感情を乱さないのだろう。利成が憤るところをほとんど見たことがなかった。思えばそれは幼い頃からそうだった。

持って生まれた性格?なのかな・・・と思ったりするけど・・・。

なかなか明希の恐怖症が治らなかった時に、翔太に対してほんの少し苛立った様子を見せたけど、それもほんの少しだ。

(翔太はわりとすぐ怒ってたな・・・)

ある時、利成にそのことを聞いてみた。

「利成は何であまり怒らないの?いつも穏やかだし・・・」

「そんなことないよ。苛立ったり怒ったりしてるよ」

「え、そんなのみたことない」

「明希の前だとかっこつけてるから」と利成が笑った。

「じゃあ、どんな時に怒るの?」

「んー・・・どんな時?かな・・・」

「やっぱりないでしょ?怒ること」

「あるよ。明希が夏目にキスされたって行った時、すごく腹たててたし・・・」

「え、でもそんな風に全然見えなかった」

「ハハ・・・そう?」

 

そしてそれから利成はとんとん拍子にことが進んだ。元々才能はあったのだ。絵だって個展を開くほどの腕前だし、明希にはわからなかったが、ピアノもかなりな腕前で、本当のところ奏者にだってなれたのではないか?小学生の頃、自分の金賞を取った絵を「つまんない絵」だと言った利成は、あの頃からすでに他の人とは違ったのだ。

──  いつ捨てられるかわからないからな

父の言葉を時々思い出した。明希もだんだんそう思ってきた。不安な思いとは別にお腹の中の子供はどんどん育っていった。

「あ、ほんと動いてる・・・すごいね」とお腹を中から蹴る赤ん坊の様子を見て、利成が感動したように言った。

「男の子だから活発かも・・・」

「うん・・・何か感動するな・・・」と利成にお腹を撫でられた。

 

ところが妊娠八か月目に入った時、赤ん坊があまり動かなくなった。出産が近づくとお腹の中の赤ちゃんは少し大人しくなるというが、それにしてはまだ早い。明希は不安になった。

そのうち出血があった。病院で医者に診てもらったらかなり険しい顔で言われた。

「ご主人、呼べる?」

「あの・・・どうなんですか?」と聞いた後、ショックで動けなくなった。

「赤ちゃんの心臓が動いてないみたいだから・・・」

何とか利成に連絡をつけようとしたが、仕事中でなかなかつながらなかったので、そういう緊急の時はと言われていた利成のマネージャーさんに電話をした。事情を話すと「すぐ知らせます」と言ってくれた。

その後、しばらくショックで動けなくなって処置室でベッドに横になった。

「このまま入院の方がいい」と看護師に言われた。マネージャーさんに知らせた後、一時間ほどで利成が病院に到着した。その時はもう明希は病室に移動していたので利成が病室に来た。

「利成・・・」と言った途端、涙が溢れてきた。利成も黙って明希の手を握ったまま、目に涙を浮かべていた。明希は利成が泣いたのを初めて見た。

 

入院して胎児を表に出す必要があった。検査の後、陣痛促進剤などを使って出産と同じスタイルになる。けれど普通と違うのは、すでに赤ちゃんが死亡しているということだ。

精神的ショックが大きすぎて不安でたまらなく、またパニック障害が起きそうだった。父や兄までもお見舞いに来てくれたが怖くてたまらない。

夜に利成が来た時に「怖くて・・・どうしよう」と言ったら、「大丈夫、俺もついてるから」と言われた。その言葉通り、処置の日は利成が来てくれた。

「大丈夫だからね」と励まされる。

「うん・・・」とうなずくので精一杯だった。

処置のすべてが終って病室に戻ると、利成が心配そうに待っていた。

「明希・・・」

「大丈夫・・・」

利成が何か言う前に明希は答えた。自分のせいでという思いでいっぱいだった。

「利成、ごめんね・・・」

「明希のせいじゃないからね」

「ん・・・」

 

退院の日、明希にとってひどく怖いことが起こった。

「どうもマスコミに気づかれたみたいだから、裏から回って」と利成のマネージャーさんに言われた。マネージャーさんが利成の代わりに会計や手続きを済ませてくれて、退院の準備を終えると看護師さんが従業員用の出入り口に案内してくれた。

明希は不安だった。そんなにしなければならないほどなのだろうか?利成を見ると「大丈夫だからね」と笑顔を見せてくれたけれど・・・。

従業員用の出口から利成に支えられるように出ると、数人の記者のような人がすぐに気がついて走り寄って来た。それからは怖くて利成に支えられたままただうつむいて、マネージャーさんの車に乗り込んだ。すぐに車を発進させるマネージャーさんを見てから窓の外を見て驚いた。

表玄関にはたくさんの記者のような人たちがいた。明希は何も知らなかったが、どうやら利成はかなりな有名人になっていたらしい。

ふと見ると、利成も窓の外を見ていた。車は外からは中の様子が見えない仕様になっている。

「やれやれ、これから少し大変かもしれないね」とマネージャーさんが言った。

利成が明希の手を握る。明希が不安でいっぱいのまま利成の横顔を見ると、利成が気がついて微笑んだ。

「大丈夫だから」と利成が明希の手を握る手に力をこめた。


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