【椎葉ラボインタビュー】もう「絶対無理」とは言わせない! 500円丼で挑む椎葉のランチ改革:廣末克彦さん
椎葉村で新たなローカルビジネスに取り組むチャレンジャーを応援する『チャレンジ・応援!椎葉ラボ』では、椎葉村をフィールドに自分でプロジェクトを立ち上げて楽しみながら活動する村内外の方を『プロジェクトオーナー』としてサポートしています。
今回の記事では、令和5年度からプロジェクトオーナーとして参加し、活動を続けている廣末克彦さんを取材しました。
プロフィール
名前:廣末 克彦(ひろすえ かつひこ)
出身地:椎葉村 不土野地区
居住地:日向市
プロジェクト:どんぶりで人を幸せにするプロジェクト
廣末克彦さんは、椎葉村の不土野地区出身。高校進学とともに椎葉村を離れてから、介護の専門学校へ進学し、介護士として宮崎県内で就職しました。その後、職場の環境が合わずに体調を崩したこともあり、23歳で椎葉村へUターンすることに。周囲の勧めで畜産業を始めてから、これまで17年間続けてきました。現在は、奥様と4人のお子さんと日向市で暮らしながら、毎日片道1時間半かけて椎葉へ通っています。
廣末さん
(椎葉村と日向市の行き来が)「大変だろう」とよく言われるけど、移動中がいろんなことを考える自分の時間にもなっていて、全然苦じゃないですね。牛の世話も楽しいです、癒されます。
そんな廣末さん、実は大の料理好き。家庭では奥様やお子さんたちに毎日の食事を作っているそうです。
廣末さん
高校時代の下宿から一人暮らしが長かったので、料理をするようになって、だんだんハマっていったというか。今では「進む道間違えたな」ってよく言われます。
そう笑いながらも、裏を返すと周囲には「料理上手」として通っている証ですね。
そんなわけで、自身の「好き」と「得意」を活かした新たな挑戦として、飲食の分野で『椎葉ラボ』に参加することを決めた廣末さん。屋号『晴れむすび』を令和5年11月末に開業し、お弁当の製造販売を始めました。
飲み会で話した「ごはん屋したいっちゃけど」をきっかけに
好きだった料理を仕事にするため、『椎葉ラボ』を活用するに至ったきっかけを伺いました。
廣末さん
地元の飲み方(飲み会)で「椎葉でごはん屋したいっちゃけど」という話をしたら、誉胤くん(椎葉村役場の『椎葉ラボ』担当者)に「実は今『椎葉ラボ』っていうのをやろうと思ってて」と聞いて。「じゃあやるしかない」ということになりました。
あれこれ考えているうちに、行動まで移す踏ん切りをつけられないという経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。そんな時に、タイミングよく舞い込んだチャレンジ応援企画の話。廣末さんにとっては、まさに「やってみたいこと」に挑戦するきっかけを椎葉ラボがつくってくれたようです。
廣末さん
(椎葉村)役場に臨時で8年間勤めたこともあったので、みんなの昼食事情はよく知っていました。カップラーメンが多くなったり、自分も含めてそうだったので。
椎葉村の中心部にある役場や事業所に勤める人たちにとって、ちょっとした悩みの一つに「ランチ問題」があります。飲食店の数が限られていてコンビニもない日常の中では、どうしても毎日の昼食のバリエーションに偏りが出てしまいがち。だからこそ需要をずっと感じていたという廣末さんが、満を持して動き出しました。
やっぱり、みんなのおかげ
『晴れむすび』の名の通り、はじめはおにぎりの販売からスタートしました。
廣末さん
おにぎり2個とおかず1品で400円で出していたんですが、「物足りない」という声がいくつかあって。家に帰って嫁さんとも相談して、丼ものがいいんじゃないかという話になりました。値段も絶対500円がいいって。丼ぶりなら容器代も弁当より抑えられるし、おにぎりを握る手間と比べて料理の作業効率が断然良くなりました。
販売開始わずか1週間で、おにぎりから丼ものへ軌道修正。最先から想定通りに進まなかったのは、それだけではありませんでした。
廣末さん
最初の1ヶ月はなかなか売れなくて、本当にきつかったですね。「1つどうですか」と買ってもらわなくても地道に声をかけて回りました。それからは、知り合いの人たちが周りに勧めてくれたりして少しずつ口コミで広がっていって。地元の繋がりがあったことが本当にありがたいです。「ご飯の量が多いから、もっと減らして欲しい」とか、食べたらみんなが意見を言ってくれるので、それも助かってます。今では毎日30個ほどが一定して売り切れるようになりました。本当に、みんなのおかげです。
はじめは思った以上に苦しいスタートとなりましたが、地道に続ける中で状況を好転させてくれたのは、古くからの人との繋がりでした。率直な意見を言ってもらえる間柄だからこそ、それを活かしたメニューを考案してすぐに商品に反映しているそう。お米や野菜などの食材はできるだけ椎葉村産のものを使用し、地産地消に貢献しています。ほどよいボリュームで野菜もしっかり摂れて、日替わりなので毎日飽きることもなく、また500円というワンコインであることもリピートの秘訣になっている様子です。
開業から2ヶ月半が経ち、早くも軌道に乗ってきた廣末さんのローカルビジネス。それらを今振り返ってみると、実はその2ヶ月半の苦労より、事業を始める前に周囲からかけられた言葉による精神的なダメージの方が思いのほか大きかったといいます。
廣末さん
「椎葉で飲食は厳しいから無理だ」って始める前から言われると、やっぱり凹みましたよ。まだやってもいないのにって。正直きつかったですね。
周囲からは「絶対無理」「どうせすぐ辞めるだろう」と言われることも多々あったといいます。
山間地では過疎化の勢いがどんどん増し、村の中だけで経済を成り立たせることが難しくなっているのは事実です。また、秘境と呼ばれるほどの立地条件で、外部からの集客も極めて難しい。そんな状況で新しいことを始める時には「理想」より「リスク」に意識が向いてしまうのは、ある意味当然のことかもしれません。
けれど一番大切なことは、それでもこうして挑戦した人がいて、結果が出たということ。物事の捉え方や、軌道修正を惜しまない柔軟性次第で、椎葉村の課題解決への可能性は十分に見出せるということを、廣末さんが身をもって示してくれました。
地域活性の観点からも、こうして挑戦する人を応援し、鼓舞する周囲の空気感こそが一番の活力になるのかもしれません。
廣末さん
椎葉は土日に開いている飲食店が少ないので、それもずっと気になってました。将来的には、店を出すことも考えたいですね。
『椎葉ラボ』で踏み出した一歩。それは廣末さんにとっても、椎葉村にとっても、大きな歩みではないでしょうか。
椎葉がその人にとっての「やりたいことをやれる場所」であること。そんな人たちを応援するつながり合いこそが、結果として村の活気を循環させていく。そんな形を、この始まったばかりの挑戦が私たちに見せてくれたような気がします。
取材/文/写真 中川薫
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