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真夜中のお客さん

「こんばんは。これはまた、ずいぶん大量に買い込みましたね」

レジに置かれた山盛りのカゴを見て、新米コンビニ店員のミリーは、にこやかに言った。


真夜中のコンビニ。
正確な時刻は分からないけれど、ここにはミリーとお客さんだけ。
そこには慌ただしさのかけらもなく、放課後の教室のように静かだった。

「見ないでちょうだい。それから、何も言わないで。あと、肉まんとあんまんをひとつずつ」

お客さんは、早口で言った。
ぷるん、と肉のついた口元には、影が差し込んでいる。
深く被ったピンク色のフードに隠れて、顔は見えない。


「かしこまりました」

ミリーは軽くお辞儀をして、さっと動き出した。
パパパンと言ううちに、トングを掴んで蒸し器の扉を開け、ちょんとかがんで、紙の入れ物を1枚取る。蒸気の舞う中にすぅーっとトングを泳がせ、肉まんをさっと掴んで、袋に入れる。軽い力加減で扉を押し、パンと閉める。袋の口をさっ折りたたんで、テープで留める。同じ動作をもう一度、今度はあんまんで行う。

お客さんは、ひと言も発さない。
ミリーが肉まんを取り出す音だけが、カチャカチャと響いている。

肉まんとあんまんの準備ができたら、カゴの中の商品を、ひとつひとつレジに通していく。

ポテトチップスのシュガーバター味、チルドカップのカフェラテ、幕の内弁当。ポッキー全種類、カップに入った抹茶パフェ、ココアヨーグルト、チーズケーキ、ホイップ・メロンパン、メープルフレンチトースト、クリームグラタン。

「合計3,437円です」

「袋に入れてね。それから、お弁当は温めて」

「かしこまりました。それでは、袋代込みで、3,442円になります」

ミリーは幕の内弁当とクリームグラタンを、それぞれ電子レンジに入れた。

お弁当が温まったら、口を広げて置いておいたレジ袋の、一番底に並べる。
ミリーは、商品をひとつひとつ、大切に持って、袋の中に収めた。
お弁当の上にポッキーの箱を置き、その上にヨーグルト、チーズケーキ、パン、ポテトチップスと乗せていく。

商品を入れながら、ミリーは「袋の中に、何か別のものを入れられたら良いのに」と思った。
その「別のもの」が何なのかは、ミリーにも分からない。
だけど、とにかくそんな思いがよぎったのだ。

最後に袋の一番上に、肉まんとあんまんを乗せた。
はみ出すこともなく、余分なスペースが余ることもなく、全ての商品が、大きめの袋1枚ににぴったりと収まった。

結局、ミリーは余計なものは何も容れず、お客さんがお求めた商品だけを袋に詰めた。
その代わり、お箸とスプーンは多めに、3個ずつ入れておいた。

「ありがとうございました」

ミリーは、ちょうどよく膨らんだ袋を台に置き、お客さんに差し出した。

お客さんは、何も言わずに袋を受け取り、さっと店を後にした。


生活に必要なものを、速く、さっと手に入れることができるコンビニ。
インスタントで便利で、必要最低限。

それが誰かの助けになることも、きっとあるのだ。

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