ほろにがパインと袋ラーメンの日曜
文脈メシ、皆さんの作品を楽しく読ませてもらっています。
ほのぼの家族やドキドキ恋のエピソード、そういうのが多くって思わず顔がほころびますね。
そんなふんわりした流れをぶったぎって、休日の穏やかなnote池にドボンと石を投げちゃいます。ごめんなさいね。
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月曜日の4時間目、『はばたき』と鳥の絵が大きく描かれた、赤い表紙の文集が配られた。
「皆さん、文集はそれぞれ手元に渡りましたか?これから、自分の書いたものをひとりずつ読んでもらいます。」
作文が得意だったわたしは、ようし出番が来た!とばかりに勢いよく冊子をめくる。
真ん中らへんに見慣れた文字。わたしの作品だ。
自分で描いた下手くそな挿絵を見て、頭が真っ白になる。
「えっ、松本先生、なんでこの作文選んだん?」
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『家族でできてうれしかったこと 3-1 タダノヒトミ』
こないだの日曜日、わたしはカゼをひいてしまいました。
熱が出てしんどかったので、ずっと夕方まで寝ていました。
起きてから、夜ごはんにお母さんがインスタントラーメンを作ってくれました。
たまごとねぎの入った、特せいのラーメンです。
それから、ごはんのあとで、お母さんが「デザートやで」って、特別にパインのかんづめをあけてくれました。
すごくおいしかったです。
みんなで楽しくデザートまで食べれたので、わたしは「たまにはカゼひくのもいいな」と思いました。
挿絵には四角いこたつに入る、女3人。と、卓上に置かれたラーメンの丼。
うわー、いびつな家族団欒の図。
先生、わたしいっぱいええ作文書いてたやん?
よりによってなんで?
なんでこんな貧乏ったらしい話、選ぶん!?
文集っていうたらみんな家に持って帰って、親とかも読むんやで。
うちが貧乏ですって、こんなとこでわざわざみんなに公表せんでもええやん。
ていうか、わたしはなんでこんなアホみたいな話書いたんや。
このお題やったら、もっとええ話書けるはずやん!
あかん、あかん、失敗したー!!
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突然ですが、チキンライスって歌、ご存知ですか?
その昔、ダウンタウンの浜ちゃんが唄っていたクリスマスソングで、作詞は松ちゃん、作曲は槇原敬之さんによる名曲です。
なつかしー!ってひとも、えー知らない!ってひとも、ぜひ一度聴いてみてほしい。
なにがいいって、歌詞がめっちゃ深くて切ないのん。
昔話を語り出すと決まって 貧乏自慢ですかという顔をするやつ
でもあれだけ貧乏だったんだ せめて自慢くらいさせてくれ!
最後は笑いに変えるから 今の子供に嫌がられるかな?
フルコーラスで聞いたら絶対泣いてまう。
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うちはたぶん、この曲の歌詞に出てくる家庭と同じくらいかそれよりもっと、貧乏でした。
家族で外食したことなんて、本当に数えるくらいしかなくて。
一杯のかけそばという有名な話がありますが、まさにそれを地で行くような経験をしたことがありました。
その頃住んでいた田舎では、外食するような場所もほとんどなくて。学校でたまに友達が日曜日に町の食堂に行ったという話を、まるで遠い外国の話みたいに聞いていました。
それがある時なぜか、夕食に家の近所のラーメン屋に入ることになり。母はどうするのかな、と見ていたら、わたしと妹と3人で一杯のチャンポンとライスを頼んでいて。お店のおばさんに愛想笑いしながら「子どもたちあんまり食べられないので…」とかなんとか言ってる母がめちゃくちゃ恥ずかしくて、早く帰りたくって。
後日、その時の事を笑いながら「あれはまさに、一杯のかけそばやったなぁ。」などと脳天気にしゃべっている母の口を、永久に開かないようにタコ糸ででも縫い付けてやりたい気持ちでいっぱいでした。
あのひとはなんだってあんなに無神経なんだろう。
わたしは絶対にあんな風には、ならない。
強く強く心に刻んだ誓いは、わたしの人生にたぶん大きな影響を与えています。
食いしん坊とか自ら名乗っちゃって、食べ物に執着がとても強いのも、そのせいかもしれない。
自分の『快』と『お金』を天秤にかけることはしたくない。
そのために、自分で稼いで好きなものを食べて、『わたしが心地良く生活できること』それがずっと人生の目標でした。
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けれど、わたしはそんな自分の生い立ちも含め、わたしという人間を形づくった全ての要素をいまは愛せています。
惨めに思える遠い記憶も、いまのわたしに、思う存分食べたいものを食べるという小さな幸せの叶え方を教えてくれた。
あの時、あれもこれも食べてみたい、遠いように見えた夢を思い描いていたわたし。うちが貧乏なことが友達にバレるのが、死ぬほど恥ずかしいと思ったわたし。自分の手で道を切り拓いていく決意をしたあの日のわたし。
いま、好きなものを食べて幸せだと思える心があるのも、みんなみんな、あの時のわたしのおかげだ。
がんばって生きてきたね。
夢を叶える力が、自分にはあると知れたね。
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それから、あの頃せいいっぱいの小さな幸せを、あなたなりに娘に与えようとしてくれてたんやね。ありがとうね、お母さん。
缶詰の、輪切りのパインなんてもう何十年も食べてへんけど。
わたし人工的なシロップとか、昔っから嫌やったし。
妹と違って、チキンラーメンとかも全然好きちゃうねん。
せやけど。
あの時のパイン、もう思い出せへんけど、きっとめちゃめちゃおいしかったんやで。きっとな。だっていつでもそつなくできるわたしが、わざわざ作文に書くくらいやねんもん。な。
袋ラーメンも、パインの缶詰も、まあ自分で買うことはたぶん、ないやろけど。
またいつか、懐かしなって食べる時もあるんかなぁ。
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文脈メシnote2本目やし、こっちの告知も載せておきます。
このひとみたいに、あまーいやつもいいよね。
おいしいは、たのしい。
膨らんじゃう妄想と、空いてくるお腹をなだめながら、明日もワクワクを探しにいこう。
サポートというかたちの愛が嬉しいです。素直に受け取って、大切なひとや届けたい気持ちのために、循環させてもらいますね。読んでくださったあなたに、幸ありますよう。