ただいま/あとがき ~大好きなあなたへ~
私がここnoteへ自分のことばを綴り始めたのが、昨年の6月のこと。
そのひとに出逢ったのは、ここへ来てまもなくのことだった。
広い広いnoteの世界で、そのひとは毎日血を流しながら生きていた。
そんな風に自分を切り刻みながら歩いているひとを、わたしはそれまであまり見たことがなかった。
彼女のことばを読むたびに、なんともいえない複雑な気持ちになった。
ただただ、流れる血を毎日見ていることしかできない。
目の前にいるのに、手が届かない。
傷口をふさぐすべはない。
どうしてあげることもできない、もどかしさ。
読まなければいい。
正直言って、はじめはそう思った。
でも、気になるのだ、どうしても。
彼女のもとには、恐らくわたしと似たような気持ちを抱いたひとが入れ替わり立ち代わり訪れ、コメント欄にはいつも愛があふれていた。
けれど、彼女はそれを受け取るのが下手なように、わたしには見えた。
誰かの愛を、まっすぐに受け取ることは難しい。
はたから見ている分には、いとも簡単に見えるかもしれない。
いざ自分がその立場になるとなおさら、愛を愛だと受け止めることができなくなる。
それは痛いほど、わたしにも身に覚えのある経験だった。
ーーーーー
それからしばらくして、勇気を出して書き込んだnoteのコメントを通じて、わたしは彼女と少しずつことばのやりとりをさせてもらうことができるようになっていた。
けれどなぜか、いつも彼女のいる場所はなんだか遠くて、どうしても入っていけない領域があるような気がして、わたしは学生時代の片想いみたいに、こっそりとその背中を見つめているしかなかった。
どうかあのひとの想いが、届きますように。
当時彼女が片想いしていた彼について書かれた文章を読みながら、声にならない応援をしているわたしは自分をずいぶん滑稽だと思った。
普段のわたしなら、ためらわず声をかけてずんずん入っていけるのだけれど、なぜか彼女についてはそれ以上踏み込んでいけなかった。
そうさせないなにかが、彼女にはあった。
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ちょうどその頃、noteでは新しい風が吹き始めていた。
嶋津亮太さんという方が、個人で『教養のエチュード賞』という企画をはじめた、という。
その第一回目の募集に、わたしは迷わず応募した。
それは、あまりに場違いな作品だった。嶋津さんへのお手紙を書くひとが多い中、わたしはその当時どうしても伝えたかったひとへの個人的なお手紙を書いて、嶋津さんへ送りつけたのだ。それも2通も。
当然、そんなものは選外だろう。
分かっていた。
分かってはいたけど、どうしても届けたい想いが、あった。
そして声を大にしては言えなかったけれど、もうひとり、それを届けたいひとがいた。
実はこの作品にはnoteの街で出逢った他の方々への想いもこっそり織り込んでいます。あのひとにも読んでもらえたらいいな、そんな気持ちで書きました。
詩織。
主人公である陽太に守られて、しあわせに笑う女の子の名前を、わたしはしおり、と名付けた。
あのひとに、届くといいな。
あのひとが、陽太と詩織みたいに、好きなひとと笑いあえる未来がありますように。
そんな淡い願いを込めて。
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それから数か月した頃、少しずつ親しくなったnoterさんたちが一堂に集うイベントが開催されることになり、そこに参加することを決めたわたしは密かに心を躍らせていた。
逢いたいひとが、たくさんいる。
そう、あのひとも、来るんだって。
とうとう彼女に逢えると舞い上がったわたしは、逢えたらなにを話そうか、ドキドキしながら彼女に手渡す小さな贈り物を選びに出かけた。
それはとてもとても、しあわせな時間だった。
実際にお逢いした彼女は、わたしの思った通りのひとだった。
強く掴んだら折れてしまいそうに華奢で儚くて、時折見せるはにかんだ笑顔がとびきり可愛らしくて。
まるで秋桜の花みたいなひとだ、そう思った。
嬉しくて嬉しくて、何を話したかあんまり覚えていない。
とにかく逢って、自分の気持ちだけを一方的に手渡して、あっという間に楽しい時間が終わっていた。
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そこからまた数か月。
いつものように何気なくnoteをひらいたわたしの目に、とんでもなく嬉しいお知らせが飛び込んできた。
誰かの恋の行方くらいで、こんなに涙を流したのははじめてだった。
どうしてなんだろう。
このひとのことばは、こんなにもわたしの心を揺さぶる。
不思議でしかたがなかった。
それからというもの、毎日の更新で紡ぎ出されてゆく、彼女の幸せな日常に頬が緩む日々が続いた。
彼女のページに誰よりも早く紅いハートを点すことができた時、じんわりと嬉しくなって毎日、18:30がくるのが待ち遠しかった。
同性とか異性とか年代とか距離とか、そういうあらゆるものを飛び越えて、ただ魂だけが寄り添っていられたらいいのに、そんな気持ちで彼女の投稿を見守っていた。
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ところがある日。
気づいたら彼女の乗った船は大きな嵐に飲まれて、見えなくなってしまっていた。
これはいったいどういうことだ。
どうしたらいいんだろう。
しばし考えてみたけれど、最善だと思われる案は何も浮かばなかった。
わたしは、ただそのひとの笑顔を見ていたかった。
だけど、現実の世界に少しずつ、そのひとの心が削り取られていくのが見えた。
なにもできない自分が、虚しかった。
ああ、まただ。
ことばしか持たない私が、現実の世界でできそうなことはなにもなかった。
それでも、私にできることをなにかしたかった。
だから私はことばで、そのひとのところまで逢いにいくことにした。
そう、あのひとの口ぐせだった。
「言葉で会いに行く。」
それをいま、してみようと思った。
タイミングよく舞い込んだチャンスがそこにあって。
そう、もう一度、嶋津さんの庭をお借りして。
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どうしてここなんだろう。
他の場所が、いくらでもあっただろう。
それでも。
わたしは、この物語をどうしてもここで、書かせてもらいたかった。
嶋津さんに、見届けてもらいたい。
そんな一方的な想いがあった。
これもまた、彼へのお手紙の、ひとつの形であってもいいんじゃないか。
そうしてわたしは自分勝手に都合よくそんな解釈をして、そこにまた別の誰かへの手紙を送りつけた。
エチュード。習作。
一年前のわたしと、いまのわたし。
変わっただろうか、わたしは。
あの頃より、書くことで少しは人間として、豊かになれただろうか。
願わくば、また一年後のわたしにも、こうして出逢いたい。
書き続けることで、少しでも人生に厚みが増していたらいい。
誰かに、自分に、ことばを届けていられたらいい。
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最後に。
しをりさんへ。
わたしの勝手な想いをこんな風に押し付けてしまうこと、お許しください。
そしてあなたをさらに傷つけてしまうようなことばがここに含まれていないことを、願います。
その上で、わたしの想いをもう少しだけ述べさせてください。
いまのあなたはきっと嵐の中で、波にもまれてもがいていることでしょう。
溺れてしまった恐怖と立ち向かう日々は、きっと容易ではないでしょう。
あなたの歩みをずっと見させてもらってきて思うのは、陸にあがったあなたはもう、たとえそれがどんなに苦しくても、しっかりと自分の足で立って歩くことしかない、ということ。
誰かの手を借りて、まず立ち上がることができたら、あとはゆっくりと歩きながら、一歩ずつ、自分の足跡を見せることしかないのではないかと思います。それはまるでリハビリのような日々かもしれない。
口に出したことばはもう、取り戻せません。
わたしも長い時間を女という性で生きてきて、過去の適切でないあなたの言葉に傷ついたひとが少なからずいることは理解しているつもりです。
しかし、その刃が向けられた、と感じている人々に対して、実際にあなたがそれを向けたものではないことも理解しているつもりです。
そこを、きちんと分けて考えて、わたしならどうするか。
どのようにことばを届けるか。
たくさんたくさん、考えました。
あなたが突き付ける刃はいつも、あなた自身に向かっていた。
あなたを殺そうとするのはもう、やめませんか。
あなたは、たくさんのひとに、愛されている。
これまでのあなたの投稿についたたくさんのコメントを、もう一度読み返してみてください。こんなにも愛であふれたことばたちが並ぶnoteを、わたしは他に知りません。
愛をただそのまんまに受け取るのは怖いけれど、いま陸の上で震えているあなたに、それをやってみてほしいんです。あなたの周りにいるひとたちは、みんな愛を込めてあなたを見守ってくれている。
世界中を見渡すと途方もなく広くて、あらがえない嵐のような敵意が渦巻いているように見えるかもしれないけれど、見つめる範囲を小さく、半径を狭くしてもう一度見回してみませんか。
よく知るひとに囲まれた、あなたを取り巻く円の小さな半径の中で、周りの顔はどんな風に見えますか。
まずは安心できる、あなたの近くにいる人々を信頼して、一歩を踏み出すお手伝いをしてもらってください。
はじめからひとりで歩こうなんて思わないで。
掌を、肩を、貸してもらいましょう。
そうやって一歩踏み出せたら、また次の一歩がうまれて。
少しずつ、歩んでいけばその跡ができて。
それを見た誰かがまた、力を貸してくれるでしょう。
そうしていつの間にか、ひとりでもしっかりと歩けるようになったあなたの姿をわたしは見たいのです。ここで。
このnoteという場所で。
いつまでも、待っています。
ただいま、ってあなたが、帰ってくるのを。
おかえり、ってきっとみんなが、言ってくれる。
わたしにも、言わせてください。
おかえり、しをりさん、って。
サポートというかたちの愛が嬉しいです。素直に受け取って、大切なひとや届けたい気持ちのために、循環させてもらいますね。読んでくださったあなたに、幸ありますよう。