見出し画像

おばさまは人数の力と笑いをもって制圧する 837文字  1分30秒読


何年か前の、電車内の出来事

電車に乗っていたら黒人が乗車してきた。
ガタイの良いお兄さん。

僕の斜め方向、端から3番目に座った。

電車は動き出し、それから2駅目に停車した際、4〜5人の賑やかなおばさま軍団が乗車してきた。

おばさま方は、入口から正面方向に当たる黒人兄ちゃんの座っている座席をサッと眺めてから、その対面の座席を選び座った。

横一列に座ると、再びワイワイと賑やかに話し始めた。

『バカヤロウ』

おばさま方が怒られた。

『ココセキアルノニスワラナイ。バカ。オレコクジンダカラ。バカダヨ』

「ドア締まります。ご注意ください」

電車はゆっくりと動き出し、車内は少しの緊張感が走る。

声の主は黒人だった。あまり上手とは言えない日本語で、しかし思いは車内の人間全てに十分伝わった。

おばさま方は驚いた顔をし、困惑している。

『違うよ、こっちが席空いてるでしょ。5人だから。あなたが嫌だからじゃないのよ』

『バカヤロウ』

黒人は聞く耳を持たない。静かに穏やかに話すが、じっと座ってはいるが、怒っている。

『そんなつもりはないのよ』

黒人のお兄さんは態度を変えない。

『バカ』

すると一人のおばさんが立ち上がり黒人お兄さんの隣の席に移動した!

『ほらね、違うのよ!誤解なの』

笑顔で真正面から、顔面距離三〇センチあるかないかで堂々たる態度で伝え

それに続いて仲間のおばさま方も、黒人兄ちゃんを囲い込むように座った。

『違うのよ、私達仲良しだから近くで喋りたいのよ。あなたの隣だとこうやって挟まれてうるさいでしょ、ホホホホ!』

笑いの大合唱がはじまった。

黒人兄ちゃんも笑っていた。

『アア、ゴメンナサイ』

おばさま方はそれから2〜3駅先で降りた。

『じゃあね、会えて良かったわ』

ワイワイと賑やかに、電車を降りた。

『バイバイ』

黒人のお兄さんはとっくに笑っている。

完全な誤解の嫌悪ムードを、誰にも罪悪感を持たせずに、車内の空気を柔らかくし、乗車しているすべての客を微笑に変えた。


おばさま方の素晴らしい対応を見させていただきました。





おしまい




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?