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短編小説0013明朗会計ホスト(感呪性より抜粋改編) 前編/三部作 2104文字 2分半読

おれは十八才で店で一番若いし、その『ただ若い』だけというアドバンテージだけで客が付いてくれたようなもんで、話術とか駆け引きみたいなものは全くのど素人だから、どっちが客だかわからなくなる状態だった。
客が物珍しさでおれをチヤホヤしてくれる。
 
ここはホストクラブだからお客様はお姫様なのだ。
この店内にいる限りは世界一の女優、ミスユニバース、一国の女王様としておもてなしをしなければならない。
 
最初のうちは勝手に客が付いてきたが、だんだんと指名がつかなくなった。まあ当然だ。酒も飲めない、しゃべれないじゃあ仕方がない。客にとって決して安くない、それなりの金を払ってるんだから楽しませる事ができないホストには客が離れていくに決まってる。
 
だから、おれはどうしたらいいか必死に考えた。
まずは客の特徴を知ることからはじめた。接客業なのに今更って感じだけど、最初の頃はマジで必死で、そういう当たり前の事が考えられなかった。
それから自分の研究。
敵を知り己を知れば百戦危うからず。そう思えるようになると、少し心に余裕が生まれて周りがよく見えるようになった。
 
ホストには色んなタイプがいる。
 
売上ナンバーワンのエースは文字通りどんな客でも何でもこいという感じだ。
騒ぎたい、とにかく楽しみたい客には友だちのように振る舞う。
お高くとまる敏腕経営者のような客には、まさに女王様のような扱いをしつつも、要所要所で気の利いたセリフを散りばめつつ、聡明な片鱗をちらつかせながら、『私にふさわしいスマートで頭の良いホスト』と、まるで賢くて自分だけに従順なドーベルマンを側に従えているような感じにさせる。エースが側に付いているだけでその雰囲気だけで自尊心が満たされる。そんな天才的な能力と美貌を兼ね備えている、おれから言わせれば超人的だ。しかも清々しいほどに違和感なくサラリとこなす。
 
ちょっとはめを外し、無礼な発言や酒をも撒き散らすような客にはあえて怒る。客であっても皆の前でしっかり怒る。しかしその後が天才的で親が子どもを諭すように、段々と穏やかになり、終いにはあんなに喚き散らしていた客がそのエースの胸に顔をうずめ、反省と後悔の涙を静かに流すのだ。まるで魔法使いのようで、どんなに気難しい、じゃじゃ馬をもいとも簡単に攻略してしまう。
 
さすがにおれにはそんな風にできない。どんなに経験を詰んだとしても絶対に無理だと思う。
だからおれしかできないおれらしいホスト像とはなんだろうかと考えた。
それは徹底的に話を聞くことだった。もちろんホストだからこちらから発言はする。聞くことに重心を傾け、客の本心を緩やかに自ら話し出すことを狙った。
なぜそう思ったかというと、おれは母ちゃんの話をいつも一方的に聞いていたからだ。おれは結構母ちゃんの話を聞くことが好きで、絶妙なタイミングで質問したり、合いの手を打ったり、ツッコミを入れたりした。母ちゃんはとても喜んでいた。
それは実の息子だからというのもあるかもしれないが、おれ自身、母ちゃんの話を本気でおもしろいと思って聞いていたのだ。本気で聞いているから魂のこもったツッコミができるし、その反応はとても満足すると言うか安心するものだった。母ちゃんも同じ気持ちだったと思う。 
そういった言葉の表面的なやり取りだけではない、いわゆる行間を読むとか、言外の意味みたいなものを感じ取ろうとすることはおれに取って当たり前過ぎることだった。
 
でもそれを客に対してやろうとするとなかなか簡単にはいかなかった。当たり前だよな。だって客は母ちゃんじゃないんだもん。
 
こちらが、もちろん丁寧に心を込めて客の事を知ろうとするのだけれども、そうすると、見透かされたようにあからさまな拒否反応を示されてばかりだった。
『客の気持ちを一生懸命強く積極的に理解しようとする』ことを敏感に感じ取られ嫌がられた。
 
あまりにもおれの思いが強すぎたため、『知りたい、知りたい』という感情が客に見透かされていたのだ。自分の心の内を理解し、どういう言葉や態度をとって欲しいのか言外に知って欲しいのはホストクラブに来店する客として当然だ。だから客自身の事を何とか知りたいとすることは間違いではない。でも理解した先の『楽しませる』事がセットでないとダメだ。おれはただただ『知りたい』ばかりが先行していただけで、『楽しませる』がないがしろにされていたからやっぱり客としては『何なの?』って思われても仕方がなかった。
 
ホストとして何でこんな当たり前の事に思い至らないのか恥ずかしかった。
それに気づいてからは客の態度が徐々に変わっていった。客からぺらぺらと聞きもしないのに話し出す事が多くなってきた。それに伴い指名も少しずつ増えていった。
 
ホストクラブに来る客はキャバクラ嬢や風俗嬢のようないわゆる夜の仕事をやっている客が圧倒的に多い。その中でもどちらかというとちょっと心を病んでいるというか、寂しがりやというか、ブライベートで何らかの問題を抱えている客から多くの指名をもらっていた気がする。いや、おれを指名する客に限らず、全体的にそういった客が多いのかも知れない。




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