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短編小説0052 今日があやと亮太の卒業式 878文字 1分半読

「俺、卒業式でないよ」

「はい?嘘でしょ?マジ?なんで亮太?」

冗談にしては中々の衝撃的な一言。

「どうして?ウケる!」

あやは冗談だと思い、笑いながら聞いた。

「俺、明日から世界一周の旅に行くんだ」

亮太の瞳は真っすぐだった。

穏やかで優しい顔のままだけど嘘を言っていない。
冗談を言っていない。

私は動揺した。

「え、嘘・・・。でも卒業式の後でいいじゃん」

高校生活の、最も盛り上がる、クライマックスのイベントに出席しないなんて。

「いやダメなんだよ。行くって決めたんだ」

「急いで行くことないでしょ?最後の思い出なんだから」

なんて薄情な人なの。
そんな思いが沸いてきた瞬間、次の亮太の言葉には逆に私がショックを受けていた。

「俺はこの三年間で十分忘れられない思い出を創れたよ。全部全力でやった。中三の頃から、高校生になったらバイトして百万円貯まったら世界旅行しようって決めてた。その時は中退しようとまで考えてた」

亮太は続けた。

「でも高校が楽しかった。みんないい奴だし、最高の友達ばかりだ。だから辞められなくなっちゃったんだよ・・・。だからみんなと別れるのが寂しいよ。でもそれぞれの道に進むんだから、お互いに励まし、お祝いしないとだよね」

ケラケラ笑う亮太を正面に、私は笑えなかった。
亮太は真剣に、真摯に、自分の人生を生きていたんだ。

知らなかった。

その迫力に押されたから笑えなかった。

自分と比べてしまった。

私は全力で生きていたのだろうか・・・。

「でも・・・亮太、卒業式ぐらい、いいじゃない。記念撮影したりさ、みんなも亮太がいないと寂しいよ」

「俺は一度自分を裏切った。百万円貯まったから旅に出ると約束したのに行かなかった。だから卒業式に出ない事で、もう一度自分との約束を思い出して、
目標を達成すると戒めるんだ。まあ儀式みたいなもんだな。
それにみんなの記憶に強烈に残るだろ。同窓会で会えば必ず、亮太、卒業式いなかったよな!って話になる」

「・・・・」

「え、なに泣いてんの?え?マジ?」

うろたえる亮太のバカは、感受性が豊かなのか鈍いのか、私の涙を見てそんな反応。


今日が私と亮太の卒業式



おしまい

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