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藤井聡太竜王誕生を祝う会の自戦解説

第34期竜王戦倉敷「藤井聡太竜王誕生を祝う会」の自戦解説だけでお届けします。今夜しか書けない、自分の書ける全てでお届けします。

何度か、藤井聡太竜王の対局後の大盤解説会に参加したことがあります。静かに盤を動かされる印象を抱いていました。ですが、大盤解説会の藤井聡太竜王と――自戦解説の藤井聡太竜王は、完全に違う藤井聡太竜王でした。

藤井聡太竜王
「はい、それでは、竜王戦第四局の終盤の自戦解説をさせて頂きます」

狩山四段
「凄い場面ですね」

藤井聡太竜王
「そうですね――」

少し盤を動かされて、藤井聡太竜王が一呼吸(ひとこきゅう)されました。狩山四段にどうしましょうか――と、藤井聡太竜王が手番を渡されます。

それに対してどうしましょうか――と、相づちで返す狩山四段。藤井聡太竜王は戻ってきた手番を最後まで持ち続けられることになりました。

藤井聡太竜王
「それでは単にとった場面から解説したいと思います」

その言葉は意訳すると以下でした。

藤井聡太竜王
(それでは、皆様いきましょうか――将棋の世界へ)

ぐっとその場の空気が変貌します。
藤井聡太竜王が会場の皆の手を引かれた気がしました。
引かれて入ったのは符号の海
棋力、老若男女問わず、会場の全員を符号の海――藤井聡太竜王の将棋の世界に連れ込まれたのです。

藤井聡太竜王
「同銀ととって――符号、符号、符号。これは先手優勢です」

素早く盤を戻して、違う局面が開始。

藤井聡太竜王
「符号、符号、符号。捨て駒を入れたことで、これは手数が長いと思いますが詰んでいます」

会場に笑いが起こりました。
このときはまだ会場は符号の海に浸かっただけでした。

藤井聡太竜王
「符号、符号、符号。これも即詰みです」

藤井聡太竜王
「符号――手数は長いのですがこれも即詰みです」

また違う局面。指し手が進みます。
まだまだ続きます。分岐からの変化。変化からの分岐。

符号。即詰み。詰めろ。詰めろ逃れの詰めろ。先手優勢。後手勝勢。

藤井聡太竜王が脳内で将棋盤ではなく、符号で局面を考えているのは有名な話です。それをご本人が自戦解説をされています。今、将棋盤で動く駒は結果でしかないのです。全てが将棋の言葉が続きます。自然な手――と聞くと本当に藤井聡太竜王が自戦解説してくださっているのだと思いました。

藤井聡太竜王
「二十数手以上の読み筋を解説してきましたが……ここから二十手以上の詰み筋が複数ある難解な局面です」

合計50手近くを読まれています。本譜に戻り盤が進みます。後手勝ちの筋からの分岐。

藤井聡太竜王
「えっと……おそらくコレは確認しないといけない」

符号の海に使った会場の皆が息継ぎする間を、藤井聡太竜王が作って下さったのかと思いました。微笑まれています。新しい変化を見つけられたのでしょうか。

藤井聡太竜王
「ちょっと、後で確認しますが……」

人が、笑えたのはここまででした。

また私たちを符号の海の――深淵に連れて行かれます。
2二歩が壁の変化は圧巻でした。
そこから二十手近い詰み。

(ぴったり)
符号の海の中で――初めて私に言葉が出ました。

戻って本譜。
打ち歩詰めを打開する手筋までみせてくださいました。ここで終了です。

藤井聡太竜王
「難解な変化の終盤で先ほど、お見せしたのはその一つに過ぎないですが――対局中、自分で考えていても楽しかった」

符号の海には時間の感覚なかったのです。
ただただ――藤井聡太竜王の思考の渦に連れ込まれ、深い深い、そして分岐分岐の先へ。読み手の奥。
将棋を知らないひとも、知っているひとも一緒に連れて行かれた。
別の言葉で言えば――誰もが将棋に魅了される特別な時間を頂いたのです。

(この自戦解説は完全に人を――観る将を圧倒する手筋だ)

ずっと観る将をしてきました。だから――新感覚、新局面はもうないと思っていたのです。大きな間違いでした。
今日は「藤井聡太竜王誕生を祝う会」です。
藤井聡太竜王はファンの前でお話しされるために事前準備をされてきたのだと思うと、自然に私からある言葉が出ました。

(負けました)

完敗です。
衝撃の20分でした。

(了)

※次のレポートは「藤井聡太竜王誕生を祝う会」のいつもの時系列レポートの予定です。今晩、どうしても忘れないうちにこのことを書きたくて、先行して書きました。分かれてしまって申し訳ございません。
※写真に関しては個別で主催者様にご相談済みでアップしています。
※誤字脱字など随時直していきます。速さ重視のアップで申し訳ございません。ご参加されていた皆様。会話の順番、記憶違いなどあったら、申し訳ございません! 修正します! ドン!とご指摘くださいませ。


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