おまけ号、全編無料だよ!「HTLってなんだ!?」#049

読者の方からご質問いただいたので、お答えしておきたいと思います。

補聴器マガジン#048の最初のミニコラムで、私の知識不足で混乱してしまいましたので、ご教示お願いいたします。
聴覚医学会用語集でHTLに該当するのは、251. 聴覚閾値レベルと思いますが、その文に続く「閾値はdBSPL」とあります。
普段使っている閾値=dBHLと思っていたので、閾値はdBSPLというところで混乱してしまいました。これって、どういうことなのでしょうか?

匿名の質問者さん

#048、導入部分のミニコラムはこちら

*HTL=Hearing Threshold Level
聴覚医学会的には「聴力レベル(HL)」のことでも意味しているのでしょうか。
閾値はdBSPL。閾値レベルという日本語は、閾値が値を示す用語なのでなんか微妙です。ぼくらがラボで「聴力閾値レベルくらいに設定してね。」と言う時は、「聴力閾値くらいの値かなあ」みたいなふわっとした言い回しで、聴覚生理学のプロなら公の場では使いません。補聴器屋さんの使う言語と耳鼻咽喉科医(聴覚生理学者)とか音響工学者のつかうことばは、この事例だけでなく他にもたくさんあります。フィッティングの議論そのものよりも、使う言語を統一することの方がホントは大事です(以下略)。

引用元:https://note.com/drnakagawa/n/nb2bc7ea97654?magazine_key=me70bdcab72d8

いや本当にすみません。僕が下記のようにHTLという言葉を使ったせいです。

というわけで、今回は僕のうっかりをフォローする解説記事なので、最後まで無料です。

日本聴覚医学会の用語集では、HTL(hearing threshold level)という言葉は、次のように定義されています。

用語:聴覚閾値レベル
対応する英語:hearing threshold level

定義・解説
片側又は両側耳で聞いた提示音に対するある人の聴覚閾値から基準とされている聴覚閾(域)値を差し引いた値のデシベル表示。

引用元:https://audiology-japan.jp/c/251/

この日本語って少し難しいですよね。そもそも聴覚閾値の定義って何なんだ?ということですが、聴覚閾値の定義は下記のように書かれています。

用語:聴覚閾値,最小可聴値
対応する英語: threshold of hearing ; threshold of audibility

定義・解説:
指定された音が,評定者の聴覚を起こし得るときのその音の最小音圧レベル。他の音源から出て両耳のいずれかに達した音は,無視されると仮定している。

備考:
測定条件は,明記されなければならない。単耳聴,両耳聴,自由音場,イヤホン使用,持続音か断続音か,検査回数など。

参考:
最小可聴値は,心理測定法としては不適当な用語。IEC/ISO において使われている分野は,測定器であるオージオメータの部分であり,聴覚閾値が適当。

https://audiology-japan.jp/c/206/

中川さんのコラムのとおりですが、聴覚閾値の定義の中に「音圧レベル」という言葉が出てきます。音圧レベルの英語は「 Sound Pressure Level」ですから、聴覚閾値と言ったら単位はdBSPLということで間違いないようです。
さらに聴覚閾値の備考欄を読みすすめると、色々書いてありますが、ポイントは「測定条件を明記」というところ。どうやら聴覚閾値という言葉の方が、厳密で具体的なようです。

これらを踏まえて、聴覚閾値レベル(HTL)という言葉を読み替えると、次のようになります。()内は大塚の加筆部分です。

片側又は両側耳で聞いた提示音に対するある人の聴覚閾値(=dBSPL=絶対値)から、基準とされている聴覚閾値(仮に健聴者の平均から音場の0dBHLを定義しようとすると、両耳聴と片耳聴だけでも異なるdBSPLになり別個の定義がありえるし、この定義は改定されることもあり得る)を差し引いた値のデシベル表示(つまり比較する相手が明確でない相対値)。

用語集に対する大塚なりの理解です。

HTLという言葉は、文章的な定義がされていても、数値的な定義が多様で、ヘッドホンで純音測定したときのHTL、インサートイヤホンで純音測定したときのHTLと、音場で測定したときのHTLは、どれもHTLだけど、HTLとだけ言われただけじゃ何を指しているか分からない。
という問題を孕んでいるようです。

余談ですが、昔々、僕が認定補聴器技能者を取った頃、僕の世代ではHTLに最小可聴閾値という訳語が当てられていたと思います。多分。もしかしたら覚え間違えただけかも知れませんけど。
その時はdBSPLやdBHLなどの単位には言及していなかったと思うので、その時の文脈に応じて、ヘッドホンによるPTAだろうと、補聴器装用の音場だろうと、非装用の音場だろうと使える便利な言葉だと思ってしまいました。
今、改めて考えると便利な言葉というのは、裏を返せば定義が曖昧な言葉でもあります。便利そうな言葉は、専門家にとってはいい加減な言葉だったりするのだな、と今回のことは勉強になりました。

僕たち補聴器技能者が補聴器店の中で聴力を測定する時は、常にdBSPLで測定するのが一番確実で理想的なのだろうな、と思います。

今回は言葉の定義のお話しでしたが、これと似たようなことは音場校正の時にも出てくることがあります。校正基準が違えば、測定結果が表しているものはまったく変わってきます。語音明瞭度を測定する時の校正や、音場測定でスピーカーを一つにするか、二つ必要なのではないか等の議論があるのですが、そちらはまたの機会に。


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耳鼻咽喉科医師で補聴器専門書の監訳者でもある「聴覚評論家」中川雅文と、補聴器専門店チェーンを営む経営者で認定補聴器技能者でもある「補聴器専…

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