艱難辛苦。
『 手を叩いた拍子に、この 鼓動が止まったら… 』
暗く静寂な部屋で両膝を抱えたまま、スマホに向かい、まるで独り言のように そう言う。
初めはただ、頭の隅にぼんやりとしていた靄だった筈が、鬱屈として、今や 私の両目を覆い、口を塞ぎ、音を奪い…
影の様に、等身大にまで肥大してべったりと足裏にへばりついた挙句、一心同体と化し…
我が身を責め虐んだ末に…
僅かに鳴る心臓さえも握り潰そうとしていた。
最早化身に成り果てた それは、ドッペルゲンガーのように時折姿を見せては、
『 早く 楽になれ 』
と、耳元で甘く魔法の様に囁く。
水面に一度投石を興ずれば、波紋になり、やがて 弧を描くように広がってゆく。
激しい自責の念に苛まれ、自傷したくなる程の衝動に駆り立てる ものに名前を付けるとすれば…
記憶 であろう。
そして、なんとも皮肉なもので…
これまで常に、その辛酸である記憶を判断材料にして取捨選択することこそが正義であり、ある種、依拠としてきた。
自我や主観的意識・クオリアをも全て喪失してしまえば、いっそ 哲学的ゾンビにも成れるのであろうが、半端に欠落している因果か、痛みだけを過敏に感ずる。
鎮痛剤は 非常に劇薬で、孤高に甘んじて身を置くことでしか寛解し得ないのだ。
そして また今日も…
呪縛のように
鎖のように
私は 私に足を取られ、仄暗い沼へ 少しずつ少しずつズルズルと引きずり込まれてゆく。
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