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完全なる破綻―― 似ている二人の運命と『PSYCHO-PASS』における社会の理

小説版『Fate/Zero』を採り上げ虚淵玄の作家性を扱った優れた評論(*1)によれば、この物語においては虚淵玄という作家の内なる葛藤が、二人の登場人物に仮託され第四次聖杯戦争に臨んでいるという。その二人とは、現在放送されているTVアニメ『Fate/stay night UBW』の主人公である衛宮士郎の養父こと衛宮切嗣と、同作において不敵な神父として戦いを監督している言峰綺礼である。両者はそれぞれ、衛宮切嗣が「奇跡による世界の救済」を願い、言峰綺礼が「愉悦による意識の転回」を望んでいた。そして『Fate/Zero』においては、このうち後者が生き残る構造を有しているのだが(詳しくは*1からリンク先を参照)、主人公としてその苦しみや内面が深く描かれているのは、願いの破れる前者である。ワタシたちは、多くが描かれることで、より多くを知るに至った者のことを「判った」気になってしまうのだが、そうなったところに、彼の願いが成就しないという展開が重なった時、物語からカタルシスを得ることになる。

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