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白日夢(写真と詩歌物語)

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気になる詩歌・小説・随筆・言の葉に写真を添えて。
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#詩のようなもの

ノイズ

古いAMラジオで聞く歌は、どこか哀しい。 雑音のまじる、ざらついた音。 途切れる、メロディ。 不確かな、コトバ。 明日を唄った歌にも、恋の歓びを唄った歌にも、 ノイズのような哀しみが、 ちりちりとまばらに混ざってる。 青い空の下に持ち出して、 AMラジオで歌を聴く。 高く明るい空までもが哀しく見えて、 ふいに、密やかに決意する。 生きなくちゃ。 明日も生きていかなくちゃ。 決意は、哀しみの中から生まれるのだ。 ノイズのような哀しみの中から。

白粉花

真っ黒な種 まんなかで裂いて 頬になすった 真白い粉 さらさらと 唇に苦く おとなになりたい  なりたくない てのひらで揺れてた  未来 ひと粒↵

喰らう

浅漬けである。 残念ながら、あたしが漬けたのではなく、 買ってきたもの。 これで100円ちょっとである。 市場の八百屋の片隅に、 無造作に積まれて売られている。 漬け汁ごと、ビニール袋に入れられて。 商品名など、なにもない。 製造者と賞味期限が、シールでぺたんと貼られているだけ。 かぶは丸ごと、だいこんは鉈割り、 小なす一本、 にんじん、きうり、二分の一本。 土から抜いて、凍えるような水で洗い、 ざっくり切って、漬けただけ。 そんな浅漬け。

午睡

どこからか小さく流れているテレビの音が遠くなり 縁側に置き去りの皿には赤い汁と薄緑の皮と黒い種 かたかた扇風機の羽の音に夢の走馬燈は廻りつづけ 微かな風と戯れて風鈴の金魚しどけなく尾を揺する                      ちり……ん

はまぐり (朗読作品)

はまぐりを買う。 こぶりのはまぐりである。 あさりより、少々大きめか、 というほどのものを、ひと袋。 潮汁にするには多すぎるので、 酒蒸しにしようと、 家に連れ帰ってきた。 なんにせよ、まずは砂出しをしなければ。 銀色のボールに水をはり、 塩をはらはら振りかける。 人さし指で舐めてみて、 塩辛い、 というほどの塩水を作る。 そこへ、はまぐりを、 そっと沈める。 亭主とふたり、 頭をつきあわせるようにして、 じっと見る。 銀色のボールを

はないちもんめ

あのこが ほしい あのこじゃ わからん このこが ほしい このこじゃ わからん わかってるくせして 知らぬふり 酔って酔わされ 惑わされ 桜のしたで はないちもんめ 呑んで 浮かれたふりしながらも ひそかに 唱える  はないちもんめ ソウダンしよう そうしよう ソウダンなんかで 決められるなら 本気で 求めちゃ いないでしょ もしも アンタが 本気なら 底抜け釜しか なくたって ボロボロ座布団 かついでだって 地の果てまでも ついてくわ じゃんけんぽん いつもい

いつからか

かくれんぼは、 見つけてもらうために 隠れる遊び。 息をひそめ、身をかたくして。 見つかるもんか、と隠れるのは、 見つけてくれると、信じているから。 鬼ごっこは、 つかまるために、逃げまわる。 息をはずませ、身をひるがえし。 必死になって逃げるのは、 かならずつかまると、知っているから。 大声あげて泣きさけぶのは、 よしよしと抱きしめてもらうため。 あたたかな胸に引き寄せて、 誰かがきっと、守ってくれる。 疑いもせずに、そう思うから。 いつのまにか、しなくなった。 か

ひなまつりの夜。

約束

月に見惚れて歩いていたら ゆきすぎてしまったので 野ざらしの井戸に降りてみる はしごは どこまでも果てしなく  零時の約束は闇に消え 見あげる月は遠い過去 あなた きっと戻るから 待っていてください   千年ほど