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トップの本気度に思いを馳せる_『トップも知らない星野リゾート』(前田はるみ 著、PHP研究所)

「トップも知らない」ってどういうこと? 
大げさな惹句のようなものだろうか。

そう思って読み進めると、星野リゾート代表の星野佳路氏が発案・主導していない事業の例がいくつも登場する。

「苔」が魅力になるの? と訝る代表をよそに、苔をテーマにした散策ツアーを推し進め、ついには奥入瀬渓流ホテルを「苔」がイチ押しのホテルに変えてしまった社員たち。

代表が「僕は行かないなあ」と反応した新しいウエディングサービス「マイ・マルシェ・ウェディング」が、今や人気の企画に。

代表が「OKした覚えはないんです。いまだに反対だと伝えています」と言う奥入瀬渓流ホテルの冬季営業再開を現場が決定。

こんなことってあるの? と驚くようなエピソードが次から次へと出てくる。「言いたいことを、言いたい相手に、自由に言える環境」「フラットな組織文化」をめざす星野リゾートでは、社員発の事業が数多くある。

本書では、自分で考え、ときに「勝手に」行動を起こす社員の取り組みを軸に、ストーリーが展開していく。章の間のコラムでは、各施設の社員が季節ごとに打ち出したい地域コンテンツを考えていく「魅力会議」、やる気のある社員にユニットディレクターや総支配人への挑戦の機会を与える「立候補制度」、星野リゾート独自のビジネススクール「麓村塾」といった、社員のチャレンジをうながすユニークな仕組みも紹介される。

表向きは「フラット」を標榜していても、実際にそれを実現できている会社は少ない。星野リゾートの社員のチャレンジ精神や向学心に感心しつつ、やはりトップが本気で「フラット」を指向し、そのための環境を整えているからこそ彼らが能力を発揮できるのだ、と感じた。

トップが「知らない」でいることは、社員を信じてまかせること。それはときに、トップの胃がきりきりと痛むような場面も伴うはず。それでもまかせる。星野氏は「放ったらかし」ではなく、「知らない」ふりをして任せているのだろう。

先日読んだ『JALの心づかい』もそうだった。伸びる会社はトップの本気度、会社の社員教育へのコミットの度合いが桁違いである。