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ニューアライバルのはなし

気軽に本屋にも行けなくなった今、サブスクのファッション誌を読む。画面をタップして、あぁ、あのブランドの新作だと確信する。やっぱりかわいい、透け感とフラワーの色合いがいい。またタップすると、次のページに飛ぶ。今度はバッグを見つけて、小鳥の餌しか入らないような小さなものを可愛いと思う。
世の中は春で、これからの季節に向けてニューアライバルが出始める。本当なら、インスタグラムをスクロールして、エディター達の記事を読んで、今季はこれだ、狙いはこれ、なんて気分を浮き足立てている時期。今は、画面をタップして、可愛いなと思うだけ。
バイトは、1ヶ月前から休みになっている。貯まった給料は、なんとなく使う気にはなれない。
ZARAのGWセールならと思ってアプリを開いても、カゴに入れるまでにはいかない。春はどこにも行かないのだから、あまり春らしく着飾る必要もない。似合わなくピンクに塗った爪だけで充分だ。
残念なことに、わたしの経済活動は止まっている。面倒くさがらずに、メルカリでも始めてみるしかないなと思う。この前買ったサガンの古本だって、メルカリの方がもっと質が良かったかもしれない。
ここに来て、不要不急が彩りだったことに気がつく。1週間に1度帰ってくる父からのプレゼントが、パティスリーのケーキから既製品のお菓子になったことで、どことなく気がついてはいたけれど。
こうやって春のニューアライバルは、買われることなく幕を閉じる。ファッションなんてものは足が早いのに、こんなことではもっと足早になると思った。可愛らしい、透けたチュールやフラワーの柄達が、布と化してしまわないとこを願うしかない。

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