エロゲメーカーがクラウドファンディングする際に全年齢で起案する理由。



こんなポストをしたら反響あったので突っ込んだ話を書いてみる。
20年以上エロゲ業界にいて、8年程大手プラットフォームで顧問やって総額8億円と100件ぐらいクラウドファンディングのプロジェクトを扱った経験値を持つロックバンドのボーカルのオッさんの雑感だと思いねぇ。

そもそも日本のプラットフォームはアダルトNG

基本日本国内のクラウドファンディングのプラットフォームはアダルトコンテンツがNGである。やってるトコをマジで知らない。
知ってたら教えて欲しいレベル。

理由は簡単で多くの大手プラットフォームは将来的な上場狙いなので、アダルトカテゴリーなんて投資家や銀行に嫌われる要素は本当なら扱いたくないのだ。

海外にアダルトを扱うプラットフォームもあるにはあるが、昨今カードの決済会社のスタンスが「アダルトNG」の方向に傾いているので起案するにも支援するにも気軽に使えるものではなく、手数料もバカ高い。
なので国内のアダルト要素を含むIPを持つ起案者が気軽に使えるようなものではない。

という訳で既存の国内のプラットフォームを使う場合は、そのプラットフォームに沿った規約を順守しなければならないので「18禁要素あります!」と素直に起案すると起案前の審査で弾かれる訳だ。

プラットフォーム在職時代はプロジェクトページにどこまでがOUTで、どこまでがセーフやねん的議論を上層部と相当交わした。
渋谷のIT会社のオフィスで「乳首は!?乳首はダメなんか!?なら乳輪はどうなんだ!?」と詰め寄ってる俺の姿を想像してくれ。
その節はすいませんでした。俺も必死だったんじゃぁ…。

<2023/10/15 17:00追記>
国内でも18禁OKのプラットフォームがある模様。
DLsite系列のci-enでやってるそうな。
手数料も10%で良心的。ただAll-In方式のみ。
起案者側の使い勝手は不明。
引用で教えてくれた人あざます。

なおかつ使い勝手調べるのにテスト起案してみた。

非常に使いやすいUIでナイスだが、プラットフォーム審査がなくてビビった。100%オウンリスクだなコレ。(正直弾かれると思った)
ギャグで起案したので支援しないように!ただの飯代になるぞ!

18禁パッチで配れば良いじゃん。

上記の理由で全年齢で起案せざる得ないのだが、エロゲ、PCゲーム業界には「パッチ配布」というメーカーにとって至って便利で都合の良いやり方がある。

全年齢で起案して後に18禁パッチを配布すりゃ良いじゃんという方もいると思うが、これはやり方によってはアウトなんですな。

プラットフォーム上で起案する段階で「あとで18禁パッチ配るね❤️」とかプロジェクトページに文言を書いた日にゃ審査で10000%落とされる。
要は起案者が支援者に「アダルト要素のあるものを渡す」という公約をすることになるからだ。それを認めるとプラットフォームの責任になってしまう。なのでプラットフォームは絶対に起案を認めない。

なので、起案する側もプロジェクトページにその手の「パッチを後日配布する」というような事は書きたくても絶対に書けないのだ。

抜け穴みたいな方法。

という訳で、エロゲメーカーが既存のプラットフォームを利用してクラウドファンディングで資金調達する際に全年齢版で起案するのはこういった事情と理由があるからだ。

とはいえ抜け道もある。
それは支援募集のプロジェクトを立てて目的を達成した後だ。
今回のageのケースだと「全年齢版を作って返礼品を支援者に送付し終わった。」場合は、プラットフォームとしての監督責務は終わってるので、その後に起案者が支援者に個別で連絡とっても、そこは感知しないのだ。

要はプラットフォーム側は「掲載されたプロジェクトの公約をきちんと果たしたんでウチのプラットフォームとしての責任は果たした!あとは起案者と支援者でお好きにどうぞ!」ってな訳である。

起案するメーカーの都合にもよるが、この段階で18禁化パッチを配布すれば特に問題はない。ただ全員が全員18禁化を望んでいる訳ではなく、全年齢って事は未成年も支援者に含まれている可能性はある訳でゾーニングは必須であるが対応はできるようになる。支援者に取捨選択をしてもらう形にすればいい。

でも言えないし書けないんすわ。
プロジェクトページに匂わせただけでアウトになるのだ。

そもそもプロジェクトページに記載された事がプラットフォーム側にとって全てな所があるので、そこに不穏なワードがあったらリジェクトされる可能性だってある。

なので突如発表リリースすると大概「18禁じゃねえのかよ…」というため息が聞こえてくる訳です。(他にもため息の理由は色々あると思うがそれは本筋とは関係ないので割愛する)

なお揉め事が起こってもプラットフォームは「ワイ等はショバ貸してるだけやけんな。当事者同士で解決してくんな。ワイ等は関係ないで。アンタ使う前に規約にOK出したろ?ほな!」とか言われるので、プラットフォームは当てにならん事だけ伝えておく。

一部界隈で話題になったスチームパイロッツの件みたいなのは特例なのだ。
(元KONAMIのサウンドのオッさんが開発会社と揉めてプロジェクトが破綻するも返金要請応じずバックれてプラットフォーム側が支援者に返金するという異例の事態になった。Makuakeの法務vs元音屋のオッさんの戦いが今始まる…)

18禁専用のプラットフォーム作れば良いじゃん!

と思う人もいると思うが、毎月のサーバー代やエンジニア、プロモーション、キュレーターの人件費など含めて多額の金銭的ケツを持てる所は数少ない。尚且つアダルトのカード決済や決済方法も新規取引になるとハードルが上がるし。

FANZAやDMMがやってない理由はぶっちゃけ「商売にならない」からだ。
なお昔の話だがDMMは18禁ではないがCFプラットフォームやって失敗してる。
俺みたいな変わり者がいれば別だろうが、大概0からの構築になる。

<2023.10/16 13:22追記>
Ci-enみたいなトコは母体がDLsiteと言う太い商売をやってて、尚且つクリエーター支援の機能の一環としてクラウドファンディングの機能を実装しているので、単一のプラットフォームと言うよりも「CF機能のあるクリエーター支援サイト」の方が正しいと思われる。

そもそもプラットフォームビジネスは手数料で成り立つもんだから、エロゲメーカーやそれに付随するクリエーターの起案案件だけを相手にしててもユーザー数も市場的に少ないから正直大きな商売にならない。(エロ同人とか含めりゃ大きな市場になるかもしれんが、他所がやってない所を見るとそういうこった。)

10年程前に国内にクラウドファンディングが始まって数年でプラットフォームは大小200ぐらいは雨後の筍のように生まれた。
が、今いくつ残ってるか?という話になる。
流行りに乗ってサービス立ち上げて消えていった数たるや…。
それぐらいプラットフォームビジネスは難しいのだ。

あとそれらのコストは「手数料」という形で支援者や起案者に跳ね返ってくる。
日本国内のプラットフォームの手数料は10〜20%だ。
(うぶごえにしても支援者が手数料17%を負担する形で起案者に調達金額を渡すシステムになっている。)

欧米のKickstarterみたいに利用者が数千万人とかいれば手数料数%とかに安くなるだろうが、国内の市場は10年前に比べたらだいぶ大きくなってはいるものの、まだまだその域には達していないのが実情だ。
メルカリぐらいにならないと無理じゃねえかなと思ってる。

あとさー、まぁ自分のトコもしでかしてるから大きな事は書けないけど、延期とかがめちゃくちゃ多い業界じゃん?エロゲ業界って。
海のものとも山のものとも知らない、ご時世的に炎上要素秘めてるアダルト関係の資金調達のケツを拭かなきゃいけない訳で大変だと思う。

その昔、エロゲを扱う流通各社に「流通がプラットフォーム持ったらええがな!」とクラウドファンディングの有用性を説明したりプレゼンしたが、当時は「クラウド…?何?」みたいな対応でけんもほろろだった。
正直「この業界クソだな。」と思って引退を決意した瞬間でもあった。

流通がプラットフォームを持つメリットは今はどうか知らんが、当時はエロゲメーカーは流通から開発費を借りていた。なので「開発費を貸付する金額が減る」というメリットがある。例えばメーカーの努力でCFで1000万円調達したら、流通で1000万円貸し付けて2000万円にする。すると2000万円分の開発費になる訳だ。

流通だって2000万円出資するより半額になった方がいいだろう。専売権や著作権を抑えてもいいし。何らかのトラブルがあった際に資金を持つ所が間に入る訳で利用者側へのサポートもしやすいし。システムの使用料や発送代行の手数料だって取れる。
そんなことを考えていたのだ。

今になって「詳しくお話を…」とか聞いてくるトコがあったが、そもそも俺は足洗ってるし、今更何言ってんの?って感じで基本シカトしてるので連絡してこないでほしい。おせえよバーカ。

じゃあどうすりゃ良いんだよ!という訳でアイデアを披露する。

18禁化を掲げてクラウドファンディングをする場合、完全に出来ない訳ではない。いくつか方法があるので解説する。

○自社ECを持っている所は「擬似クラウドファンディング」が出来る。

返礼品コースを通販のお品書きに並べて定時に売上報告を公開する。
ちなみに「グリーングリーン」のリメイクの時にこれやった。
一番手っ取り早い方法だと思う。

デメリットはクローズになるので、発信力やプロモ力、ファンを多く抱えているメーカーじゃないと難しい。

クラウドファンディングのメリットは支援金額が可視化されイベントになりやすい要素があるんだがそれが無くなる。コアファンしか支援しない可能性が上がるんだな。あと当たり前だが決済手数料は通販会社分取られる。

○自社のサイト内にクラウドファンディングのAPIを埋め込む。

海外のアパレルメーカーが自社の通販サイトに各商品ごとにクラウドファンディング的な要素を持つ決済方法を取り入れて、多く注文が入れば販売価格が下がるという逆クラウドファンディングみたいな仕組みで商売してる所がある。

俺もOVERDRIVEのサイト内にAPI埋め込んだろ!と画策してたが予算の問題とエンジニアを囲わないといけない為断念した。

上記に挙げた2案で両方に必要なのは「研究」「トライ&エラー」の経験値になるが、相当色々と研究しないと実現は難しい。
社内で専任置くにしても壮絶に大変だと思うよ。
実際に起案して病んでる人多く見てきたし。

そもそもな、海図を持たずにワンピース探す奴多すぎ。
仕組みも研究しないでそのままデカい金額の起案をして苦労すんのは当たり前だっつーの。

ちなみに俺はageの君望移植CFには関わってません。
吉宗さんとは旧知の仲なので開始前に助言したぐらいです。
(ちなみにNavelとまどそふとのプロジェクトもそんな感じの関わり合い方っス。)

俺がやってんのは君望20thのライブ企画の方で、こちらはガッツリ関わってるが、そもそもゲームの場合、自分の開発現場じゃないのと延期年数の単位が1ageとか生まれてしまうメーカーの開発なんざ到底責任を取れんから引き受けられんわ笑

ライブの方は君望移植CFが開始されたら再始動します。
ほぼほぼ仕込み終わってたんだけど、移植CFの話が出てきたんでファンが絶対混乱すると思ったので、移植CFが落ち着いたらやろうかなと。

という感じで、エロゲメーカーがクラウドファンディングする際に全年齢で起案する理由を解説してみた次第です。

<2023.10.15 AM5:00追記>
「MUSICUS!」の時になぜ出来たかというと、

・起案したプラットフォームの顧問をやってたので内部事情に精通しており、交渉や相談をしやすく、そこそこの売上を個人で立ててた。
・クラウドファンディングを行うのに起案経験がその時点で豊富だった。
・プラットフォーム内におけるエロゲメーカーの起案ルール設定がまだ曖昧な時期だった。

という理由がある。今は無理!

おすすめの記事です。


今回の記事が面白かったらぜひ購入してください。
10〜20分は楽しい暇つぶしになります。
150〜300円でエロゲの体験版のごとく途中まで無料で読めます。

○音楽業界に蔓延る謎プロデューサーをJKを娘に持つ親として撃退した話。
「謎プロデューサーvs俺」

○廃棄したエロゲ雑誌が元で中学生男子との交流を描いた話。
「タカシ君(仮名)と俺」

○エロゲ屋社長がクラウドファンディング0から研究して日本一になった話。
「推される技術」(これは書籍です)

よろしくお願いします!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?