この苦しみも、いつか

高校生の頃は吹奏楽部に所属していたのだが、私はこの部活がとても苦手だった。

中学生の頃も吹奏楽部だったからという理由で、特に深く考えず、自分の中ではごく当たり前に選んだ部活。音楽が好きだったし、楽器も好きだったから、まだまだ続けていたくて選んだ部活。でも、どうしても、苦手だった。

いじめられたわけではなかったし、特に大きな事件的なことがあったわけでもない。ただ、この部活の人たちと、最後までどうしてもそりが合わなかった。本当に、ただそれだけだった。

一度正式に始めたことは最後までやりきるタイプの人間だったので、なんとか2年間、ある意味自分を騙しながら、やり切った(私の部活は高2の終わりに引退だった)。だけど、この2年間、特に最高学年になった2年生の時のもやもやや居心地の悪さは、トラウマとして自分の中に残ってしまった。部活以外のところでは本当に素敵な友人や先生に恵まれたし、学校が嫌いになることもなかったけれど、そのトラウマは3年生になってからも時々フラッシュバックしてきて私を苦しめた。そのたびに、他の部活を選べばよかったかなあとか、そもそも違う高校を選べばよかったかなあという「たられば」が、頭をよぎった。

驚いたのは、社会人2年目を迎えた今でも、そのトラウマが根深く残っていたということだ。

幸い、大学ではまた全く別の部活に入り、様々な良い出会いをして、かけがえのない経験をすることができたので(これはこれで色々思うところがないこともないけれど笑)、高校生の頃の苦しかった思い出がよみがえることはほとんどなかった。そして、それは社会人になってからも同じだった。目まぐるしく過ぎていく日々の中で、わざわざ嫌なことを思い出すことも無くなっていたのだ。

そんな自分のトラウマに気付いたのは、つい先ほど、暇すぎて昔の動画を漁っていた時だった。高校生の頃の、吹奏楽部の最後の演奏会の動画を見つけた。

驚いた。曲名も、メロディーも、その曲を演奏していたことすらも、まったく思い出せないのだ。見たり聞いたりしても、1ミリもピンとこない。完全に記憶から抜け落ちているのだと思った。演奏している間は楽しんでいるつもりだったから、まさかここまでとは思わず、呆然とした。

一方で、動画は見ていなくても、中学の頃の吹奏楽部の思い出はいくらでもよみがえってくる。演奏した曲、その時見えていた景色。このメンバーで勝ちたいと心から思っていたこと。それでも金賞をとれなくてあまりにも悔しくて頭が真っ白になったこと。引退の時に話したこと。恩師がかけてくれた言葉。

そして、そんなことを考えていたら、次には涙が止まらなくなった。なぜ泣いているのか、何がそんなに苦しいのか、悲しいのか、何もわからない。それでも、とにかく泣いてしまった。それも静かに流れる涙ではなくて、止めようとしても止められない、嗚咽だった。

自分で自分が全く分からない。そんなに苦しかったのか。そんなに闇を抱えていたのか。あの2年間は私にとってなんだったんだろう。こんなに苦しいなら、やっぱり違う道を選んだ方が良かったんじゃないか。

だけど、それは違う、と今なら思う。

苦しい思いもしたけれど、この高校に入ったから、私は今でも仲良くしてくれる大事な友達を得ることができた。この高校に入ったから、素晴らしい先生や興味を持てる学問に出逢えた。この高校に入ったから、私はあの大学に行けたし、その先でたくさんの素晴らしい経験を積むことができた。この高校に、そしてこの部活に入ったから、こんなに苦しい経験をすることができた。あの頃は分からなかったけど、今なら、あの時の経験が自分を強くしてくれていると感じる。

私の経験なんて、地味すぎて苦しみのうちに入らないかもしれない。だけど、それでもいい。この経験があるから、「私の現在」が、そして「現在の私」がある。それでいい。

当たり前のことだけど、過去も全部受け止めて、自分だけの現在を、明日を、生きていきたい。

ふさぎこんでしまう毎日だけど、いつか、この経験も糧になると信じて。

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