ふつうのレターパックは存在しない

 コンビニでレターパックのライトとふつうのをひとつずつくださいと言ったら「ライトとプラスですね」と店員さんに名称を正され、そうか、レターパックに「ふつう」はないのだと思い出した。いや思い出したのではない、レターパックの名称の謎にはじめて私の焦点があったのである。

 この世にあるのはレターパックライトとレターパックプラスで、ふつうのレターパックは存在しない。考えてみるとこれは、けっこう不思議なことではないだろうか。

「ライト」と「プラス」で想像するのは、SMLのサイズで言えばSとLだ。ライトは軽い、プラスは何かに足すという意味なのだから、やはり基準となる真ん中のMサイズがほしくなってしまうのが人間の避けられない性である。レターパックライト/レターパック/レターパックプラス。この選択肢なら誰もが納得する。レターパックよりも軽めのものを安く送れるのがレターパックライト、レターパックよりも大きめのものを送れるのがレターパックプラスと呼ぶのが筋というものではないか。今回われわれ取材班はその謎に迫った。

 なぜふつうのレターパックがないのか。かつてはただの「レターパック」というMサイズ的商品があり、なんらかの事情で真ん中のサイズだけが消えてしまった……? その仮説を立てレターパックの歴史を調査した。インターネット便利すぎぃ!

 2003年、専用パックを使えば全国一律500円でものを送れるサービス「エクスパック」(通称・エクスパック500)が発売された。パックの大きさは24.8×34.0cmで重量の上限は30kg。パチンコ玉を箱で送ることでも想定していたのか? このサイズでそんなに重いものを探すほうが難しい。

 2010年になるとエクスパックは販売終了、後継商品として「レターパック500」と「レターパック350」が発売された。500、350というのは価格である。サイズ上の主なちがいは厚さ制限。350のほうは厚さ3cmまで、500のほうは制限なし。パックに収まってさえいれば送れるわけだ。なおこれらの重量上限は4kgと大幅に減量されており、荷物扱いのエクスパックに対してレターパックは郵便物扱いとなった。やっぱ30kgも要らなかったでしょう?

 消費税率の改定にともない、500円と350円だったレターパックシリーズの価格は、現在520円と370円まで上がっている。価格改定にあわせてレターパック500が「レターパックプラス」、レターパック350は「レターパックライト」に名称変更された。担当者も数年の間にこんなにも増税するとは想像していなかったか。値段が名前になってるとわかりやすいんだけど、この大増税時代、運用がね……。

 そして2015年には、レターパックよりも小さくて軽いものを送れる商品として「スマートレター」というパック系商品も発売されている。

 さて、歴史トータルで見ると系列商品のサイズ順は以下のようになる。

スマートレター < ライト < プラス < エクスパック

 やはりライトとプラスの間の商品はない。XS/S/L/XLの状態である。なんなら先発商品が“エクス”パックって、はじめからエクストラサイズが前提ではないか(エクスポートかもしれないよ?)……そう、ふつうのレターパックは最初から存在しなかった。スタンダードなんて、はじめからなかったのだよ……。

 しかし、なにか商品を売る身になりきって考えてみると「ふつう」を出そうなんて思わない。めちゃくちゃお手軽に送れるとか、あっと驚く便利なサービスが付帯するとか、なにかその商品ならではのポイントを設定し、それをアピールするに決まっている。レターパックの開発者は、ふつうじゃない商品を顧客に届けたかった。その思いがふつうのレターパックを存在させなかったのではないか。

 そう考えてみると、歴代パックシリーズのすべての名称は、そもそもサイズに則ったものではない気がしてくる。エクスパックのエクスがEXTRAだったとして、それはサイズの話ではなく「特別な」の意。レターパックライトもプラスも「価格がライト」「サービスがプラス」の意を込めたように受けとれる。っていうか誰がサイズっつった? スマートレターって名前もどう見てもサイズじゃないし。私が勝手にサイズ持ち出しただけじゃん……。

 こうしてレターパックの名称の謎に迫った結果、おそらくそもそもライトもプラスもサイズの話ではなさそうで、日本郵便の開発担当者の思いが詰まったネーミングとの結論になったから何!? それがどうした!? べつにどうでもい~~~~~!!! みなさんの感想を先に代弁しておきます。

 ここまで読んでいただきありがとうございました。急にどうしても気になって調べてしまったのでした。いやあ、思い込みってこわいですね!




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