「生まれてきたことに必ず意味がある」を解釈する

 2011年版アニメHUNTER×HUNTERのオープニングテーマ 小野正利さんの『departure!』。

 私の心を一瞬で少年にさせてくれるこの曲のAメロにある「生まれてきたことに必ず意味がある」というだいすきなフレーズを解釈します。

大地を踏みしめて
君は目覚めていく
天使の微笑みで 連れ出して!
孤独でも 一人じゃないさ
生まれてきたことに 必ず意味がある

小野正利 departure! 歌詞 - J-Lyric.net より引用

いきなりニーチェの名言

 さっそく話は逸れますが、私が「すきな言葉」を聞かれたら真っ先に思い浮かぶドイツの哲学者ニーチェの言葉です。

真実というものは存在しない。存在するのは解釈だけだ。

 この世に「客観的な事実」というものはなく、すべてのことは「各人の解釈」でしかない。なぜいきなりこの言葉を出したかというと、私たちの世界は解釈で本当にすべてが変わってしまうということを、まず言っておきたかったからです。では、本題に入ります。

「生まれてきたことに必ず意味がある」の解釈①

 この一節、解釈によってはかなり残酷な言葉になると思っています。

生まれてきたことに必ず意味がある
⇒ 私(あの人)にも絶対に意味があるはず
⇒ いくら考えても、意味が見つからない
⇒ 意味のない人間には生きる価値がない

 ある解釈はこのような感じでしょうか。こう見るとかなりひねくれた解釈のように思えますが、実は結構陥ってしまう人が多い考え方のような気がします。
 "必ず"あるはずの生まれてきた意味が、自分や他者に見いだせないとき、それは存在の否定につながります。「意味」という言葉は「価値」という概念と強く結びついているからです。「意味」の説明にも「価値」という言葉が用いられるくらいです。

画像1

 例えば、障害のある人や生活保護を受けている人、重病で動けない人、罪を犯した人など、社会にプラスの機能を果たしている(=貢献している)と思われにくい人に対し「価値がない」と判断する人がいます。これは機能主義の考え方です。

機能主義(きのうしゅぎ、英: functionalism)は、社会的諸部分によるある事象を、それ以外の事象ないしより上位の社会的全体に対して何らかのかたちで貢献するか否かという視点から捉え、評価し解釈する方法論的アプローチである。

Wikipedia:「機能主義 (社会学)」の項目より引用

 機能主義の思想は、自覚しているよりもずっと深く私たちの脳に刻み込まれています。

 解剖学者の養老孟司先生はその理由について、現代に生きる私たちの身の回りには自然のものよりも人工物が圧倒的に多くなり、人間にとって機能性・利便性の高いもの、効率が良いもの、役立つもので溢れているからだと言っています。

 つまり私たちの生きる世界には、どんどん"人間にとって意味のあるもの"しかなくなってきているのです。だから、意味のないものが存在することが異常に感じられる

 私もよく蚊に刺されて真っ赤に腫れるので、かつては絶滅してくれ……と思っていました。しかし「人間社会の役に立たないものは存在する意味がない」と考えることは、本当に浅はかなことだと思うようになりました。

 実はそう考えたきっかけもHUNTER×HUNTERなので、そのあたりの詳しいことは以下の記事をご覧ください。

 「社会に貢献しているか?」という機能主義の視点で、誰かの「生まれてきた意味」を捉える考え方が極端になると、"価値のない人間は殺してもいい"という信念のもとに2016年の相模原障害者施設殺傷事件のような残虐な事件が起きたり、自分に"生きている価値"を感じられず自死してしまったりします。こういう話を聞くと、本当にやるせない気持ちになります。

「生まれてきたことに必ず意味がある」の解釈②

 さて、次は私が推奨したい解釈です。ちょっとややこしいですよ。

生まれてきたことに必ず意味がある
⇒ "必ず"あるということは、例外がない
⇒ 自分がどう思おうが、生まれた時点でもう意味がある
⇒ 自分で新たに見つけるべき意味なんてない

 ただの言葉遊びに思えるかもしれません。でも私はこの解釈が一番すきで、しっくり来ています。「この世の誰にでも必ずある」ということは「ない」ことと同義だということです。生まれたことそのものが生まれてきた意味……というともはや意味がわからなくなってきますが(意味意味うるせえ)、そういうことです。

 考えてみれば当然のことですが、人が生まれながらに持った「存在の意味」なんてなく「生まれてきた」という出来事だけがあります

 もちろん、王族・皇族の出自で生まれながらに役割のある人やスポーツ一家に生まれて当然のようにオリンピックを目指す人もいます。なかには生まれた瞬間に神のお告げで使命を背負う人もいるかもしれませんが、そんな人を含めても、生まれてみてはじめて、さてこの先どう生きようか?となる状況に根本的には変わりありません(選択に大きな制約はありますが)。

 HUNTER×HUNTERのなかでも、「絶対的な王」として生まれたメルエムですら、自分の生まれてきた意味を死の直前まで考え続けていましたね。私も思春期を迎えていきなり「私はなんのために生まれてきて、生きているんだろう……」と悩み出したことがありますが、最初からないものを探しても見つかるわけがありません。

 もし「私は○○のために生まれてきた」と思ったとしたらもれなくそれが正解ですし、すでにある意味を見つけたのではなく、自分で意味を決めただけのことです。だから、生まれてきた意味がわからないと悩む必要もないし、なんらか意味を決めなくちゃいけないということもない。そして誰かに意味を決められることも、意味があるかないかを判断されることもないのです。

 私は、自分が生きているうちに出会うあらゆる感情を味わうために生まれてきたと思うことにしています。この考え方もHUNTER×HUNTERのジンに学びました(バイブルすぎて恥ずかしい)。詳しくは以下の記事に書いています。

機能主義から離脱する

 生まれてきたことには必ず意味があります。蚊やゴキブリにも、あなたにも私にも。生まれてきたことそのものが生まれてきた意味です。だからもうわざわざ追加で意味なんて探さなくていいよ、というのが私のすきな解釈です。

 存在そのものにそれ以上の意味や価値を求めることはナンセンスです。もしあなたや私や誰かが社会になんの貢献をしていなくても、社会の一部として何も機能していなくても、まったく問題にはなりません。社会に貢献することが私たちの生まれてきた意味や、私たちの生きている価値ではないのですから。

画像2

解釈でもっと作品をすきになる

 『departure!』の作詞を手がけた羽場仁志さんとTEAM HUNTERのみなさんがどのような意図でこの一節を書いたのかは、もちろん私の知るところではありません。

 しかし、私たちには解釈の自由があります。元々聴くだけでテンションが上がる最高のアニメソングですが、自分のすきなように解釈することで、もっとこの曲がだいすきになりました!味をしめたので、また何か他のものも解釈しちゃいたいです。

ご無理はなさらず、しかしご支援はたいへん助かります!