今見ているものは真実か?~白爪草

19日公開の白爪草を見てきました。
予定はしていたものの上映シアター数が少ない事から物販は懸念していたのですが、パンフレットが完売で手に入らなかった事は痛恨でした。

事前情報は予告までの確認とした自分と事前情報ゼロでアクターについての知識もほぼゼロの状態の嫁の二人で鑑賞しました。
新しい試みの映画であり粗削りな部分と課題が残る作品かもしれませんが、それを忘れて最後まで目を離させないキャストの熱演と良質な脚本によって体感時間が短く感じられました。

個人的なこの映画の評価は5点満点なら3点だと思います。

予告以上のネタバレは一切無しでレビューをしていきたいと思います。

一人二役、双子の姉妹

主演の電脳少女シロが双子の姉妹、白椿 蒼と紅を演じます。
同じ顔をした二人はたしかに別人としてそこに存在し、しかし同一の存在のようにも感じる。
そんな不思議な感覚が全編を通して流れています。

映画は姉の紅が服役を終え妹の蒼の務める花組というフラワーショップに会いに来る所から物語は始まります。
カウンセリングを受けながらフラワーショップの店員として働く蒼と長い服役から社会復帰した陰のある雰囲気の紅。
この二人の会話のやりとりが本編の大半を占める事になります。
狭いフラワーショップのバックヤードという空間でやり取りされる言葉が時間が経つにつれて明かされる伏せ札になる叙述トリックの妙がそこにはありました。

セリフの情感や抑揚を中心とした表現だけで長時間繋ぐのは難しいはずですが、この作品ではその辺りが上手くフォローされ最後まで集中して視聴できました。
ところどころに感じる違和感がフックになっているので激しい映画ではないはずなのに視聴中は常に緊張感が漂っています。
劇場作品としては短い部類の作品ですが、最後まで緊張を保つ事ができることで濃密な体験ができるのではないでしょうか。

脚本は完全オリジナル

脚本は書下ろしの完全オリジナル作品です。
原作あり作品や、キャストありきの作品になるとどうしても拭いきれない原作やキャストイメージの影響がありますが大胆不敵に完全にオリジナル。
それも萌えやコメディ要素に頼らず作品力で立たせるぞという意気込みを感じるサスペンス作品です。
嫁とほぼ同じ感想を持ったのはワンシチュエーションというセットもあって映画というより演劇の延長線上にある作品ではないかという事でした。
感覚としてはライチ光クラブのような空気を感じました。

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B072W8H7HS/

二人の姉妹に隠された秘密と真実。
シンジツガミエマスカ?というキャッチコピーの通り、作中でチラリと見せられる鍵に目を奪われると別の鍵を見落としてしまう。
パズルのような構造の脚本に囚われるとTwitterでの視聴報告にあるように飲食を忘れてしまうと思います。

視聴後も鑑賞者に「今見ているのはなんだ?」というお土産を残して終わります。
鑑賞した人が語りたいと思うのも頷ける絶妙な終わり方だと思います。

映像に至らない点が目に付くが、大化けの可能性も

キャストの熱演と脚本の巧みさが最後まで飽きさせない、作品として楽しめるものと感じていますが所々で映像が気になる部分があります。
性質上フルCGではありますがルパン三世 the FirstのようなCGアニメーションではなく、モーションキャプチャーや手付けの動きなどを内製モデルを上手く当てはめて作成している映像だと思います。
それ故にモーションや動作に若干の違和感が入る部分が残っています。
没入感と緊張感の高い作品中においてダイレクトに影響のある違和感なので気になる人はとことん気になってしまうのではないでしょうか。
しかし全体として見ると非常に小さなチームで制作され、時勢もありフルリモートという制作環境と考えると潜在的な可能性は極めて大きいと感じます。
単純に見てもマンパワーをポストプロセスやレンダーに投入することでもう二段、三段の進化の余地が確実にあります。
近年のCGアニメーション映画で目の肥えた人にはどうしても鼻につく点があると思いますが、細部に神が宿れば・・・
ディレクターズカット版、Blue-rayの登場に期待しましょう。

映像にやや厳しめの評価はしていますがフラワーショップのバックヤードの雰囲気、空気感は上手く表現されており何となく感じる息苦しさは間違いなく映像由来だと思います。
空間表現的にも劇場向きに上手くチューニングされていて植物が苦手な嫁の居心地が悪くなるくらい良い雰囲気が出ていました。

2021/01/30 追記

デジタル修正版のネット配信が開始されました。
映像面で気になる点などが修正されており、劇場に行かずとも鑑賞できますので是非確認をしてみてください。

https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2169564

劇場での一回鑑賞では読み取れなかった部分までじっくり確認すると新たな発見があるかもしれません。
配信版は開始前に出演キャストのトーク、修正版と劇場版が続けて配信され、最後に監督・脚本の制作陣のトークまで収録されていますので、作品世界を楽しみたい方は最後までじっくり鑑賞してみてください。

シーンを彩る音の世界

劇伴は斎藤優輝さん。
倖田來未やClariSの楽曲に編曲として携わっていらっしゃる作編曲家です。

全体として重い雰囲気で展開する作品ですので殆どのシーンが緊張感のあるサウンドとなっていて、心情の変化というより鑑賞者側に緊張感を与える事を狙った構成になっています。
特に場面の展開に限りのあるワンシチュエーションなので緩急の変化は演技と音が重要な要素になります。
この作品は特に気を配らされる事が多いので一度で隅々まで鑑賞しきるのは難しいのですが、二回目の視聴ではまた別の楽しい方が出来る作品なので複数回鑑賞する方は是非サウンドにも耳を傾けてみてください。
機会があれば是非どんな印象で作業されたのかインタビューしてみたいですね。

世界初に挑戦した映画

この作品は劇場作品として初めてフルにVTuberを起用した映画です。
世界初の試みであるからこそ媚びずにオリジナルの脚本で一丸となって制作された作品でした。
結果としては課題を残すも足腰のしっかりした作品として成立していると言えます。
ファンが初動の足掛かりとなっている事は間違いありませんが、新しい映画の試みがどう進化していくのか?という未来を想像させるだけの魅力がありました。
映像面でもう一段上のステージを目指せば、CGアニメーションと実写の間に新しい何かが産み出されるのかもしれません。
一人のシロ組として鑑賞した結果は勿論満足ですが、映画好きな一般人から見ても楽しめる作品であることは間違いありません。

以上ネタバレ無しのレビューでしたが、本当は物語を追う内容を書きたい!!と思うくらい深い脚本です。
バーチャルYoutuberを見る映画ではなく、サスペンス作品としての視線で楽しむ作品だと思います。

最後に見た光景の真実がなんだったのか、自分の中ではまだ判断が出来ないままです。
公開期間が不明ですので、気になる方はお早目に。