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リコスティーニさんのマウスピース

10日間ほどイタリアに行ってきました。

旅の目的のひとつは、マウスピース職人のリコスティーニさんに会うことでした。

リコスティーニさんと私たちは、かれこれ5年以上前に知り合って以来、今では良き友人としてお付き合いさせていただいています。

リコスティーニさんのマウスピースは、ニューヨークフィル、メトロポリタン歌劇場などで演奏する、世界トップクラスの音楽家が愛用していることでも知られている、入手困難な人気のマウスピースです。もちろんイリヤンも使用しています。

イリヤンは『良いマウスピースを見つけることは、良い楽器を見つけることよりも難しいことだ。』と常々言っています。

『そしてさらに難しいのが、良いマウスピースと、それに合う良いリードとのマッチングだ。』とも。

『良いマウスピースと良いリードの両方に出会えることがあったら、そのとき僕はもうおじいちゃんになってるかもしれないよ。』そんな冗談を言っていたくらい。それほどにクラリネット奏者を悩ませるのが、マウスピース探しなのです。

そんな中イリヤンが出会ったのがリコスティーニさんでした。

アレッサンドロさん

本名は、アレッサンドロ・リコスティーニさんといいます。

なんと!アレッサンドロさんのマウスピースは、液体を固体にして素材を作るところから、全てアレッサンドロさんひとりで手作りしています。

これだけ有名なマウスピースなのだから、ファクトリーで数人の職人さんによって作られているのだろう、と多くの人は思っているようです。

ところが、アレッサンドロさん以外には従業員もいません。ファクトリーもありません。

ご自宅のお庭に、小さなアトリエがあって、本格的な作業はそこでひとりでされています。それ以外の調整やコルク貼りといった作業は、ご自宅で行なっています。最後の仕上げのロゴ入れは、奥様のロベルタさんのお仕事です。

そしてもっと驚くことは!アレッサンドロさんが普段は高校で音楽の先生をされているということです。平日は高校の先生、家では二人の娘さんの良きお父さん。ご近所さんやアレッサンドロさんの古くからの友人たちは、彼が世界一のマウスピース職人さんだということすら知りません。笑

それほどに謙虚に、こっそりと人知れず、黙々とマウスピースを作り続けているのがアレッサンドロさんです。

左から、アレッサンドロさん、イリヤン、ロベルタさん

今回イリヤンがアレッサンドロさんを訪れた目的は、イリヤン仕様のニューモデルのマウスピースを開発するためでした。

実はこの開発は数年越しのプロジェクトで、イリヤンがイタリアまで何度も訪れたり、オンラインで打ち合わせをしたりして進めてきました。

アレッサンドロさんと同じくイリヤンも相当な職人なので、一切の妥協はなく、「違う、そうじゃないんだ、もっとここはこう、惜しい!」といったやりとりを延々と繰り返していました。

「僕の願ってるものには近いんだけど、でもあと一歩足りないんだよな。」と言いながら、なかなか思うものが出来上がらず、プロジェクトは一旦休止していた時期もありました。

そんなやりとりを経て、今回ついに『Speranza!!(希望)』とイリヤンが唸ったものが出来上がりました。

今回久しぶりにアレッサンドロさんに会って感じたことは、彼がイリヤンのことをリスペクトしていて、信頼しているんだなということでした。

アレッサンドロさんはイリヤンのことが好きなんだな、と。笑 もちろん、イリヤンもアレッサンドロさんのことが大好きなんですが。

アレッサンドロさんがイリヤンに心を開いて、彼の中の変えられなかったこだわりを緩めて、イリヤンの言う通りの方向に委ねようとしているのがわかりました。

イリヤンもアレッサンドロさんから多くを学んで、彼の仕事へのこだわりを理解した上で、自分の目指す方向性を粘り強く伝え続けてきた、そんな感じがしました。

お互いに信頼関係を築くために、これまでの時間がかかったんだなと感じました。

アレッサンドロさんとイリヤンを見ていると、お互いを理解し合える友を見つけたような感じがしました。

高度なことを研究している人というのは、自分たちが奥深く追い求めていくほどに、それについてこれる人や、それを理解してくれる人はどんどんいなくなります。

そんな中お互いに、『ここにいた!見つけた!』みたいな、嬉しさと喜びがあったのだと思います。

私たちがイタリアを離れる前日、アレッサンドロさんが別れを惜しんで涙ぐんでいたのが印象的でした。

アレッサンドロさん行きつけの地元のレストラン

イリヤンがいつも生徒さんたちに言っていることがあります。それは、『今の自分にとってピッタリと心地良く感じるマウスピースよりも、それを扱えるようになるにはあと少し努力が必要だ、と思うマウスピースを選びなさい。』ということです。

自分がそのマウスピースに追いつくために努力することによって、自分を成長させてくれるマウスピースこそが、良いマウスピースであるということです。

アレッサンドロさんのマウスピースは音を出すことすら難しい、と言うクラリネット奏者が多くいます。

けれどもイリヤンは、クラリネット奏者である以上、好き嫌いはあるにせよ、リコスティーニのマウスピースを取り扱えるだけの技術は持っているべきだ、と言います。

それほどに、口周りの筋肉を正しく使うことが求められるマウスピースであり、同時に、その技術を存分に発揮させてくれるのも、リコスティーニのマウスピースの特徴です。

音色の変化、クリアなアーティキュレーション、ボリュームの変化まで、表現したいことに隅々まで柔軟に応えてくれるマウスピースだそうです。

そんな、イリヤンが目指す表現を自在に叶えてくれて、同時に、多くの人にとって心地良く演奏することができるであろうニューモデルのマウスピースが、もうすぐでき上がります。

いつになるかはわかりませんが、日本にも届けられる日が来ると思います。

日本での購入は、石森管楽器さんのみになります。

我が家にあるマウスピース

それでは今日はこのあたりで。

今日も良い1日を!

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