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ゲンロンSF創作講座を受講する方へ

Introduction

 この原稿は、これからゲンロン大森望SF創作講座を受講される方へ向けて、書いたものです。

 元々は、最終課題の提出が終わったら「来期の受講を検討している方に向けて」書こうと思っていました。ところが課題の締め切りも先に5期の募集が始まり、あっという間に定員が埋まってしまったので、すでに受講を決められている5期の皆さんと、もしかしたら将来受講されるかもしれない方へと思って書いています。1年間続ける上での参考になればいいなと思います。

自己紹介、創作の経験値

 あらためてまして、4期受講生の渡邉清文です。ありがたいことに、最終選考に選んでいただけました。しかし新人賞をいただけた訳でもなく、新規受講生の方と同じく、引き続き小説を書き続ける身です。
 ぼくのプロフィールと作品については、リンク先の創作講座のサイトを見ていただくのが良いと思います。

SF作講座プロフィール/渡邉清文

 今のところ(2020年9月5日時点)、全提出課題が読めるようになっています。最終課題を含め実作を6回提出しました(第2回、3回、5回、8回、9回、最終)。
 執筆歴ですが、受講の数年前から、1万字以下の短いものは少し書いていましたが、講座の実作の規定である2万字の長さの小説を書くのは、ほぼ初めてです(ほぼ、と言うのは大昔の高校時代に書いたことがあるので)。2次創作もやってなかったです。

 とある回の講師の作家の方が、受講生の傾向を知るためにということで、プロの作家を目指しているのか、それともアマチュアで書いていこうと思っているのか、受講理由を尋ねられたことがありました。最終選考会でも菅浩江さんから訊かれました。
 自分は「プロを作家を目指す」ほうに挙手したものの、経験値からは「プロ、アマとかよりも、小説を(もっと上手く)書けるようになりたい」というのが受講理由の本当のところでした。小説を書くことが先で、作家になるとかはその結果と思っています、優等生ぽい言い方ですが。でも物事の順序からすればそういうものでしょう。書かないと、人に読んでもらえるようなものが書けないと、作家になれるわけないので。

受講して良かったこと

 何がしかの魅力を感じて受講を決められた皆さんには今更かも知れませんが、私が個人的に、創作講座を受講して良かったと思うところを書きます。

(1)老若男女、様々な境遇、経験値の人たちとフラットに付き合える。
 受講生が40数人いれば、年齢分布もバラバラです。4期について言えば、20代の学生から、50代まで。また男女比は受講生比率で約8:2、最終実作の提出人数比で2:1(27作中、男性18作・女性9作)でした。さらに首都圏だけでなく地方からの受講生もいらして、新幹線や飛行機で講義に参加されてました。
 普段の人付き合いの広さにもよるでしょうが、こんな大勢の人たちと対等な関係で付き合える機会は稀ではないでしょうか。
 執筆経験もまちまちで、公募の選考結果に名前を残してきた人もいれば、小説を書くこと自体初めてと言う人までいました。また、必ずしもSFに詳しい人ばかりでなく、他ジャンルの人とか、演劇の人や詩を書いている人もいました。
 もちろん5期は1〜4期とは異なる人たちの集まりでしょうけれど、一人ひとりのユニークさを楽しめる場であると良いなと思います。

(2)普段読まないタイプの小説を読める。読む気があれば。
 受講生に幅があれば、当然ながら、書かれる小説もまちまちです。SFと言っても千差万別ですし、SFを書いてこない人もいます。読書の幅は人それぞれでしょうけど、自分から手に取る小説のタイプは多少なりとも限定されていると思います。きっと、自分からは読まないタイプの小説を読む機会が得られます。
 ただし、あくまで「他の受講生の作品を読む人」だけが得られる特権です。人の書いた小説を精読するのは、自分が小説を書く上でもとても勉強になるし、何より楽しいです。

アドバイス、学んだこと

(1)今のうちに、読みたい本は読んでおくこと
 講座がスタートすると、毎月、梗概と実作の執筆に追われます。学業や仕事があり、十分に時間を割けるのは休日だけと言う方も多いだろうと思いますが、そうすると、休日は創作以外のことは何もできなくなります。おそらく一番削れらることになるのは、参考資料以外の本を読む時間です。『三体II』も『第五の季節』も『すべて名もなき未来』も、早川、創元、竹書房の各種アンソロジーも話題の同人誌も、今読んでおかないと1年後まで読めない可能性が高いです。
 私はまだ『三体』(1巻目)を読めてません。そう言うことです。

(2)積極性重要、自分から動くこと
 講座の仕組み上、全員の梗概、実作を満遍なく見てもらえるようにはなっていません。講師の言葉だけ待っていると、何も得るものが無く終わるので、積極性が重要です。
 20万円払っている元が取れるように、講座を使い倒しましょう。
 梗概の講評は全員貰えると思いますが、聞きたいことは何でも質問するといいと思います。評価が低かった梗概は、後回しで駆け足の評価になりがちですけど、そう言う時でも言いたいことあったら遠慮せずに発言すると良いでしょう。
 あらゆる場でアピールは重要です。特に、選出梗概を決める場では、複数の候補の中のどっちを取るかと言う場面があります。自分がその候補に一人になっているようなら、臆せずアピールして勝ち取りましょう。「まだ選ばれてないので」でも、「書きます!」って一言でもOKです。
 講義が終わった後に、講師の先生を捕まえて話を聞くのは必須でしょう。大抵、行列になると思うので、遠慮せずいきましょう。
 受講生同士の交流も無いと、モチベーションが持続しません。感想会に参加するのは実力の向上にはかなり有効です、講座の後のオールの懇親会(今後はどうなるか分からないけど)に参加するとか、他の人の作品に感想を伝えるのは、対面はもちろん、noteやブログやTwitterでもできると思います。自分から伝えないと、自分の書いたものの感想をもらう機会は増えないです。

(3)梗概の文字数は守る、分かるように書く
 梗概の上限1200字について、3期までは守られていなくても選出される傾向にありましたが、それが問題視されていたこともあり、4期は皆守って提出しています。1200字ちょうどの長さに整えて提出する人もけっこういました。5期になって文字数制限が緩くなるとは考え難いので、ここはきっちり守るのが良いと思います。
 梗概を書くのは得意な人も苦手な人もいるようです。どちらにしろ、読み手に分かるように、伝わるように書くしかないです。1200字ってだいたいA4用紙1枚分の長さです。1枚に要点をまとめる、相手に伝わるように書く訓練って、学生でも社会人でも割とやってることだと思います。そういう機会が少なかった人は、過去の選出作の梗概などを参考にすると良いと思います。

(4)自分の書きたいことを書く
 あまり、次回の講師にはこの路線が受けるのではとか、今流行りのタイプの話はとか、考えるのはやめた方が良いです。そんなこと考えて高い品質の作品を世に問えるのは、小室哲哉や秋元康クラスの人でしょう? その実力が自分にあると信じてヒット作を飛ばす事を目的に創作に励みたいなら止めませんが。
 大事なのは、自分が書きたい小説、自分が読者として読みたい小説を考え抜くことではないかと思います。それ抜きで、いくら書いたって多分つまらないものしか出来上がらないのではないかなあと思う。
 もちろん読者に読ませるための創意工夫、技術というものはありますが、それも、書きたいことを書いた上での話ですよね。

(5)自分の課題設定があるといいかもしれない
 毎回の課題に追われて梗概出しているだけだと、やらされ感が溜まってくるかもしれません。自分にとっての課題とかテーマを設定して臨めると、モチベーションが違うと思います。
 課題といっても、自分にとっての小さなもので構わないです。例えば、主人公を男にする/女にする、〇〇を主人公のモデルにする、必ず実作を書く(つもりで梗概を書く)、宇宙に出る、現代を舞台にする、起承転結のメリハリのある話を作る、食事の場面を出す、脳内描写をする、音楽を描く、金持ちを描く、貧乏人を描く、ガチのハードSFを書く、妖怪小説を書く、剣と魔法の物語を書く、実社会の〇〇事件について/現象について書く、早めに初稿をあげて推敲の時間をとる、etc...

(6)ポイントはかなり偶然の要素が強いので、過度に気にしない
 講座の配点方法や、実際の1〜4期の結果から推測できると思いますが、ポイント・ランキング=実力とは必ずしも言えません。その時々の梗概提出者数や選出人数、さらに選出されても書いてこない人がいるなどの事情で点数は左右されます。順位が上の人より下の自分の方が実力があるとか思い込む驕りや嫉妬も愚かなら、下だからと卑下しすぎるのも愚か。褒められないより褒められた方が嬉しいし、点数は高い方が嬉しいのは人情ですが、目安くらいに受け止めておくのが心の平安のためにはよく、順位より自分が納得できるものが書けたかどうかの方が、よほど大事と思います。
 一方で、梗概選出されていない実作で点数が入るのは、かなりうまい小説だけだと思います。選出外で点数貰えた人は自信持っていいと思います(私は一度もありませんでした)。

(7)梗概も実作も出せるだけ出す
 書かないと講師にも受講生にも、講座に注目している外部の人にも読んでもらえません。あたりまえですが。

・梗概選出作以外も読む講師の回はチャンス
 基本的に、大森望さんは全実作を読んでくださっているようですが、それ以外の作家、編集者の方は、選出梗概の実作だけを読まれて講評するのが基本です。しかし、何人かの作家の方は全実作に目を通されるので、その回は(選出されていなくても)狙って実作を出すと言うのは講評をもらうためにはいい作戦です。連続受講の人がいますので、誰がその先生か聞いてみると良いと思います。

・完成度が低くても出す。未完成でも出す。
 自分で納得いかないとか、人に見せたく無いとか、自意識が優先する人もいるでしょうが、出さなければ無です。人に読まれなければ、講評もされないし感想も貰えません。少なくとも創作講座に通って勉強しようと思うくらいには下手なのだから、書いたものを公開して改善に繋げた方がいい。
 それから締め切りに間に合わなくて未完成でも、公開した方が良いです。あまり大っぴらに勧めることではありませんが。「書きかけだよね」と講師に叱られるかもしれませんが、叱られないことが受講の目的では無いはずなので。途中まででも読んだ受講生がいればフィードバックはあると思うし、あとで加筆してどこかに上げるとかすればいいと思います。

・書けば上手くなる
 4期の梗概選出者は20人ほどいました。その中の何人かは、小説を書くのが初めてと言う人でした。やっぱり真面目に毎回書いているからこその成長だと思います。一方で複数回選出された人は、すでにそれぞれの場所で活躍している人が目立ちましたけど、やはり1年の中で上手くなっていたと思います。

(8)とはいえ、自分のペースでいい
 なるべく書きましょうとは言うものの、自分にできるのは自分ができる範囲のことだけです。毎月、皆勤賞で実作を書く人も、選出された時だけ書く人もいました。ちなみに4期では、どちらのタイプの人も最終選考に残っています。
 それぞれに、学業や仕事や私生活もあるでしょう。
 自分にできるペースで、体を壊したりせずに1年間やり通すのが大事です。

最後に

 SF創作講座で学んだのが、1年早かっただけで、この文章を読まれる方と立場は一緒です。だから、ぼくからのメッセージではなく、プロの作家からこれからの作家へ向けた言葉を残して終わりたいと思います。
 いつの日か、彼に「日本でこんなもの書いてるぞ」って言える日を目指して。

私はまだきみたちを知らない。でも、そこにいるのはわかっている。立ち上がって、行動を起こせ。テーブルの上で踊れ。やればできるはずだ。わたしにはわかっている。実際に体験したのだから。

「80年代サイバーパンク終結宣言」ブルース・スターリング

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