見出し画像

ジャズ私小説「Love for sale」




ある酷く寒い冬の日に、鶯谷でちょっとした用事を終えて萩の湯という素晴らしい銭湯で冷えた身体を温めた後に併設してある食堂で生ビールを立て続けに二杯飲み干した。
まっすぐ川崎に帰ればよいのに僕の好奇心が顔を出してしまいカップ酒片手に鶯谷のホテル街をふらついていた、残念な事に日曜日なので開いている店も少なく選択肢は限られているようだ、できれば個人経営の安い立ち飲み屋で刺身を肴に熱燗でも呑んで帰りたいところだった。

すると古めかしい小料理屋が目に入った、なんでもオデンが自慢の品で飼われている猫とも遊べるという、店構えは著しくボロいが表に酒とツマミの値段が明記されていてまあそこそこの値段のようだし、いい加減寒いのでこの小料理屋で一杯やる事にきめた。

僕が麦焼酎を呑みながら月刊ジャズライフを読んでいる間、高齢の女将はテレビに夢中で殆ど会話も無く、極めて人見知りな僕はそれがむしろ心地良かった。
余談だがオデンは意外に普通というか特別美味しくなくて、猫はどこかに遊びに行ってるようで足元にある猫のトイレから若干の異臭が漂っていた。

オデンを肴に麦焼酎の中々を二杯飲みお会計をすると予想より若干高く値段の方も中々だった。

鞄から常備しているカップ酒を出してチビチビやりながら鶯谷の駅までホテル街を歩いていると、おそらく韓国の方だと思われる女性に声をかけられた。
〇〇というホテルを探しているという女性はスマホのLINEの履歴を僕に見せ、そこには少し乱暴な文体で「公園の二軒隣だ早く行け。」というような事が書いてあり地図が一緒に添付されていた。

スマホの画面を見る時に少し触れた彼女の手はとても冷たかった。

まさに僕が先程まで飲んでいた小料理屋が線路沿いの公園の側だったので、来た道を引き返せばそのホテルを見つける事ができるはず。

そして僕はおそらくセックスワーカーだと思われる美しい女性と二人でネオンが煌めくラブホテル街を彷徨った。

僕の片手にあるカップ酒を見て彼女は笑った、なんだか少し寂しげな笑顔だった。

小料理屋までの道を二人で引き返すと、ものの数分でそのホテル〇〇は見つかり、彼女は笑顔で僕に礼を言い、煌びやかな光の中に消えて行く途中にこちらを振り返り僕に手を振った。
その顔は大人のようにも子供のようにも見えた。

鶯谷の駅までラブホテル街を一人で歩きながら、彼女が今から相手をする男性が優しい紳士な人だと良いなあなんて思いながら、カップ酒の残りを一気に飲み干した。

よろしければサポートをよろしくお願い致します。 サポートしていただけたら、書籍を出版する費用にさせていただきます。