あの日打ちひしがれて食べた肉の味など覚えていない

昔行ったことがある店舗の閉店というニュースを見た。全国チェーンだから、たまたまそこを撤退するというだけ。


あの日、散々に心を傷つけられ、それでも早く帰りたいがために無理やり笑顔を作って「お肉食べたいです!」と言って入った場所だった。
美味しかったとは思う。味は覚えていない。

その時交わした会話は覚えていない。
大した話でもない。
上司におべんちゃらを使う目障り極まりない男と女の上司。
少し前に上司から私はお叱りを受けていた。
絶望の淵にいた私のことなぞ気にかけるわけでもなく罵声を浴びせる。
そんな顔で来るなら帰れと言う。帰ればよかったのかもしれない。帰りたかった。でも仕事だと思い無理やり顔を作った。

その日は異動の発表もあった。
休んでいた先輩が退職していた。さよならも言えず。

上司はそれを知った途端、私に変な優しさを今度はぶつけてきた。
気持ちの悪いほどの変わり身。
この人は「なぜ若い人が辞めてしまうのか」という嘆きをいつも言う。
私に散々八つ当たりをして、たまたま退職こそしてはいなかったが、気持ち的には辞めたい気持ちでいっぱいであった。
そのDV男のようなやり口が気持ち悪かった。

退職しなかった私
退職した先輩
同じ辛さを抱えていたのに、何も出来なかったと無力感に苛まれた。
何故私が残るのだと。

その休んでいた先輩の代わりのポストがおべんちゃら男。
何が起きたのか重大性が分かっていないのだ。

何か食べて帰ろうかという上司に「肉」と答えとりあえず食べた。肉を食べればなんとかなるだろうと。

解放され、家に帰り改めて先輩の退職に嘆いた。
私の無能さを懇々という上司に退職もせず生き残っている私。
有能な先輩。ただ背負ってる荷物が重すぎた。手助けが遅すぎた。家族もいる、若い彼に退職という道を選ばせてしまった。
(現在は別業種にいるようだ)

バツが悪いと思った上司と
知らぬが仏でおべんちゃらしか言えない男と
無能な私は退職もせずここに存在してるのだろうと
3人囲んで食べた肉の味は覚えていない。

その店舗が閉めるという報せを見ただけ。
結局退職した私だが、あの日ほど胃がギリギリして心が空洞になった日はない。何が正しいのか、悪いのか、どうしたらいいのか。泣きに泣いた。

悲しい思い出の場所がひとつ、物理的に消え去るというだけ。

そんな6年前の3月の話。

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