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産土 オンライン版 (Episode 2) 解説

●イントロダクション 

 いきなり言い訳から入るようで恐縮至極だがこれはもう8年も前の事。うろ覚え感は否めない。かの高名な文化人類学者レヴィ=ストロースだって『悲しき熱帯』を刊行したのは、旅から18年後くらいだったと云うが、それに比べれば自分の年月なんてまだまだ余裕が…なんて事を考えて自分を慰めようともするが、叶うならばもっと早くこういうものを書きたかった。だが映像というものは不思議なもので、幾多の撮影したフッテージを見続けていると、当時の空気感や息使いのようなものが妙に蘇ってきたりもする。

 第一話を発表してから一ヶ月半程の時間が経ってしまった。反響は少なからずあったが、やはり人々が自粛を余儀なくされていたからであろう。そして社会の再始動とともに何かの熱が冷めていくのは感じられた(それは悪い事ではなく、むしろ望ましい事だろうが)。いくつかの意見が寄せられたが中には「映画版の方が詳細な描写でなく曖昧な部分があった為、入り込み安くて好きだった」と云う意見もあり暫くじっと考えてみたのが、おそらく映画版の方には僕の不理解や若さやカッコつけたさ、或いは明確に言及する事を忖度して避けようとした等の理由により、サラッと済ませていたり、なんとなく匂わせて駆け足で済ませてしまったところが多々ある。それが「曖昧な余韻」のような効果を発揮していたのかもしれない。

 今回改めて再編集していて思ったのが、それらの忖度を一旦すべて排除し、できるだけ「ドキュメンタリーに近づけよう」というおまえがそれを言うのか?と言われてしまいそうな事を考えた。つまり、僕らがそこに居合わせたのとできるだけ同様の状況に見る人を連れていき、その時間の中に投げ出してしまうということだ。

 あらためてここで熱弁する必要もないことだが、ドキュメンタリーといえども、何らかの思惑や構成というものがあり、作者の恣意やなんらかの条件の下に制作されている以上、それは「真のドキュメンタリー」等ではありえない。真のドキュメンタリー等というものが仮にあったとして、そんなものは人が見るに耐えないだろう。我々製作者は「見るに耐え得る」ものを作ろうとする。見やすく、より意図を通じやすくしようとする。それがドキュメンタリーというものの実像から必然的に我々を乖離させていく。もう一つは本作になんらかのポエム性や神秘性を見ようとする人々の存在も若干気になっていた。どうしてそうなるかイマイチわからないのだが、まずもって『産土』という作品は僕の詩情を(そんなものが仮にあったとして)発散させる場ではない。今となっては若干あやふやでおぼろげではあるが、僕はこれをできるだけ「資料」として残したいと思いながら制作していたのだと思う。なので本シリーズは映画版とは違い、見やすく、理解しやすく、飽きさせない…的な事からどんどん離れていくのではないか、そう予感している。

 そうはいうもののいたずらに時間ばかりかかってしまった。なぜだろう。まず映画版でまったく登場しなかった未編集素材を相手にしていたため、その時の感覚を自分の中に呼び起こすまで時間がかかった事、そしてそのため編集方針が中々決まらなかった事が一番大きな理由だろう。強いてもう一つあげるならば、おそらく「空気」が変わったからだろう。このまま一歩も外に出れずひたすら家で臥薪嘗胆し続けるしかないと思ってサクサクとこのシリーズを展開できると思っていたのだが、ところがどっこい。あれほど世界中を巻き込んだ阿鼻叫喚の図はどこ吹く風とやらで、ここ徳島でもマスクをつけてる人の姿も少数になった程である。一度に気が抜けたのか久しぶりに痛風を発症してしまった。その日は丁度5年ぶりの新しいカメラが届いた日でもあった。僕の人生では悲しいかな、新しい事をしようとすると交換条件であるかのように必ず痛みを伴う。コロナ自粛に痛風安静加わった。

 悩みながら、ためつすがめつ、この第二話を作るにあたって、延々と続く無限地獄のような編集をどうしたものかと思案していた。僕はなぜか一つの映像を作ると、それまで積み上げてきた何かが一度に瓦解してしまい。まったくどうやってやるのか分からなくなってしまうのである。伸びては刈られる未年の宿痾であろうか。その中で思ったのは、上述のできるだけ「ドキュメンタリーにする」という事と、淡々とやったらいいのではないかという事。未来の誰かのための「資料」となるように。

それでは、第二話についての解説を以下に書き記す事にする。

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