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デザイナー育成において、優しさを履き違えてはいけないという話

はじめまして、まいるどしゅがーと申します。数百万人が利用する自社サービスのWeb領域にインハウスデザイナーとして携わっています。

中堅デザイナーあるあるかと思いますが、このところ手を動かしてデザインを作る機会がめっきり減ってしまいました。代わりに時間を費やしているのが若手の育成です。

私の所属するデザイン組織は基本的に中途採用のみで、私自身も制作会社から転職し入社しました。その当時と比べて組織の人数は2倍以上になっているものの、関わる領域も広がっているため人手は慢性的に足りていない状況です。自走し、一人で完結できるリード・シニアレベルのデザイナーが増えれば良いのですが、売り手市場でアップトレンドのデザイナー採用においてそういった人材は取り合いです。デザイナー採用については、数年前になりますがbosyu社代表取締役の石倉さんが非常に面白い記事を公開されていました。今年の国勢調査でここからどのように変化があったかも気になるところです。

加えて、インハウスデザイン組織は具体的にどのような業務に携わっているか外から見えにくく、意識的に情報発信などしていない限りなかなかその魅力は伝わりません。決まった自社サービスに長い期間携わるより、様々なジャンルのデザインができる制作会社などの方が魅力的に感じてしまう方も多いのではないでしょうか(自分はかつてそうでした)。

そんな状況もあり、採用に期待するだけでは不十分で、私の所属するデザイン組織でも育成の必要性が高まってきました。中堅三十路デザイナーの私は育成する側になるわけですが……

ダメなんです。

一言で言ってしまえば、私怒ることがめちゃくちゃ苦手なんです。苦手というか、したくないんです。

根本的に「楽しく働きたい」みたいな欲求があって、例えばデザインのフィードバックをする際も「こんなに指摘ばっかりしたら嫌な顔されるかな……」みたいな感情が頭をよぎり、できる限り優しくありたい、なんて思うわけです。私の組織にそういうタイプが多いのが功を奏して?組織としてはとても仲が良く、休日も会うような関係です。

そんなある日、若手の一人が転職することになりました。転職経験が複数回ある私はポートフォリオをレビューしたり、よく相談にのっていたのですが、なかなかに苦戦したようでした。最後の方は「もう面接やだ……」とボヤいていました。転職自体はできたようですが、かなり消耗していたその若手の姿を見てとても申し訳ない気持ちになったんです。正直なところ、「うちの組織に居たんだから、どこでもやっていけるよ!」と自信を持って言える程に育成ができていたとは言えなかったからです。

そんなある日、『アクタージュ act-age』という漫画を読んでいて、一つの台詞に出会いました(※微妙にネタバレなので注意)。

アクターストーリーの漫画なのですが、ダブル主演の舞台でどちらの演技がより良いのか?に挑むヒロインとそのライバル。喉が潰れるまで稽古に打ち込むライバルに対して、演出家がこう言います(柊は登場人物の名前)。

(中略)休ませてやれる程余裕があるか それで負けた時泣くのは誰だ 優しさを履き違えるな柊

引用元:『アクタージュ act-age 9』2019.12.4 集英社 原作:マツキタツヤ 漫画:宇佐崎しろ

これを見てハッとしました。完全に優しさを履き違えていた、とこの時思いました。

優しく接することで、波風立てず仲の良い組織を崩すまいとするあまり、とんだ勘違いをしていたのだと痛感しました。私の優しさは優しさではありませんでした。

だから厳しく叱責しなければならないとか、無理をさせなければならないとか、むやみに組織の雰囲気を悪くさせたいということでは決してなく、デザイナー育成における優しさとはスキルアップに繋がらなくてはならないということです。

デザインスキルはよくセンスと絡めて先天的なものとして語られがちですが、私は筋トレと同じだと思っています。適切に負荷をかければ、誰でも相応の結果が返ってくるということです。この負荷を避けて、デザイナーとして独り立ちしていくというのはなかなかに難しいのではないかと感じています。

この台詞に出会ってから、意識的に若手への接し方を変えています。いや、目の前の若手に対して私ができる本当の優しさとは何か、それを念頭に置いたことでフィードバックで話す内容などが自然と変わってきた、と言えるかもしれません。

正直なところ、これまで接してきた若手全員の育成に寄与できたかと言えばそうではありません。私の考えるスキルアップがこの人には合わないのだろうなと思い、他のメンバーに育成を変わってもらったこともあります。デザイナーと一口に言ってもタイプは様々で、そういった点でのマッチングは今後の課題でもあります。

ただ一つ言えるのは、それでも食らいついてきてくれる若手がいることが、とても嬉しいということです。そんな彼ら/彼女らに対して何ができるか、今後も考えながら向き合っていきたいと考えている今日この頃です。

(というか書き終わって思ったけど、これ別にデザイナーに限った話じゃないな……まぁいいや)


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