見出し画像

ていねいな暮らしと花を枯らすわたし


 
最近、ていねいな暮らしもどきをしている。


たとえば、部屋の一角に推しスペースをつくった。鏡と好きな香水のびんと好きなひとの写真。キャンドルだってならべてある。
雰囲気に合うように青い花瓶にさした一輪のばらは、好きな人の名前をつけて水をあげるたびにちょっと話しかけたりしている。

 
「ジンさん、今日も最高にキュートだね」

 
あ、そういえば好きなアイドルのカムバックに合わせてベッドシーツをバター色に変えた。
脱ぎ散らかした服もかごに入れたらそれっぽく見えるし、好きなアクセサリーは祖母にもらったケースに入れてだいじにとってある。

部屋に自分でかいた絵を飾る。



 
ひとりでもユーチューブで名前も読めないような海外歌手の曲を流したりするし、じぶんで作る料理にはばかみたいにオリーブオイルとハーブソルトをばかばか入れる。



最近ハーブを入れすぎて作った料理がほぼ干し草のビジュアルになったこともあった。

そうじもするし、洗濯物も干す。
学生のありあまる時間を朝におふろに浸かりながらcold playのFIX YOUを大熱唱して過ごすことだって、ある。


あと犬の散歩にもいく。
うんちもちゃんと捨てる。
犬のうんちは、ちょっとかわいい。

 
ていねいな暮らしもどきをしていると、あれ?わたしって「ていねいな人間」なのでは?と思ってしまうことがある。

 
だって部屋もかわいいし、花も飾るし、音楽も聞くし、お☆洒☆落☆じゃん!

 

ち・が・う!


 
まって、本当にちがう。断固としてちがう。
わたしは決して「ていねいな」人間じゃない。ていうか「ていねい」ってなんだよ、ひらがな、文字数の無駄遣い。
気づく人は気づいたと思うが、以上の文章にはなぜか「ひらがな」が多用してある。
わたし、ひと、だいじ。
わかる、雰囲気なんだ、雰囲気。
ひらがなにすることによって漂うなんとなくやわらかいふんいき。
ここ、わかりますか?
平仮名にすることによって何となく漂う柔らかい雰囲気。ね?

話は戻るが、ていねいな暮らしもどきをしているわたしは、全然丁寧な人間ではない。

朝おふろに入るのは昨晩おふろに入るのが面倒だったから。
料理にハーブをかけるのはそれをかけるとどんな料理もそこそこおいしいから。
 
ふと視線をキーボードからはずすと、山積みの洗濯物。わかってる、昨日洗濯機をまわすのを忘れたから。きのう生ハムを解凍しすぎてただのハムになったのをぜんぶ食べてなかったことにしたし、かけすぎてこぼれたハーブはぜんぶ指でなめとったし。
 

わたしはもともと、花を枯らす側の人間だ。

買ってきた花を二週間以上生かせておけたことがない。みんなわりとすぐに死んでしまって、まあ維管束ぶった切られてるからな、と言い訳したりする。
花殺し、という言葉があるならわたしは生粋の花殺しだ。
 
なにを言いたいのかというと、花を枯らすような人間でもちょっとよい暮らしをしているふりはできるのですよ、という話。

実際好きな人の名前を付けたばらはよくわからないほどいとおしいし、彼を生かすための毎日はたのしい。

ネイルをぬったばかりの爪と今夜食べる手ごねのナンをてんびんにかけるほど楽しいことはない。
 
ていねいな暮らしもどきは、わたしのような花殺しにもちょっとしたうるおいとたのしさをくれる。


 
このマガジンはこれくらいなんの落ちもない話をぽつぽつしゃべる場所にしたので、今日のところは、ここで。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?