No.1
「ここなんだったっけ?」
「ディスクユニオンだよ」
「あーそっか、そうだね」
サンロードから東急百貨店まで伸びる道ではそんな会話が聞こえてくる。…気がする。
最後にあそこに行ったのはいつだっただろう。いつパルコに移転したのかもあまり覚えていない。昔、先輩が『DISK UNION』と書かれた鞄を提げていて強い憧れを抱いた記憶がある。
初めて入ったのは友達と一緒だったか。それとも1人だったか。欠片も覚えていない。しかし、あの雰囲気は好きだった。
階段を登ると目に入る所狭しと並べられたCDやレコード、音楽関連の書籍。ジャンルが大きく書かれた看板の下で無言でジャケットを次々にめくる大人。
いるだけで、見ているだけで楽しかった。
何枚もCDを買った。値札の色を確かめながら、「おっこれは安いぞ」なんて言ってホクホクとした顔で帰っていった。
中学生時分の僕はとにかくそれが楽しくて、休日になると赴いては大人たちの真似をしてパタパタとCDをめくった。
パルコに移転してからは、少し足が遠のいていた。しかし、理由は移転ではない。そもそもあまりCDショップに足を運ばなくなったからであった。
偶然タイミングが重なったせいで、移転後の店舗に強い記憶はなかった。
ふと時間が余って、地下に降りた。アップリンクで映画を観る予定が少し早く来すぎてしまった。
時間を潰そうとふらふらと音のする方へ吸い込まれていった。
懐かしいような、そうでもないような、暖かく迎え入れられているようで、冷たくあしらわれているような、不思議な感覚に陥る。
以前はあまり興味のなかったジャズやプログレのコーナーを見る。やはりCDを漁るのは面白い。サブスクやYouTubeとはまた違う出会いがある。
そういえば、ジャケ買いをしなくなったなと思った。サブスクでジャケが気になって聞いてみても、特に気に入らなければすぐに離れてしまう。
ジャケ買いをしていたころは、このお金を無駄にしたくない一心で好きになろうと努力していた気がする。あくまでも気がするだけかもしれないが。
などと考えていると急に店内のBGMが大きくなった。いや、実際の音量は変わっていないのかもしれないが、突如として耳に入ってきたのだ。
流れていたのはTHE HIGH-LOWSのNo.1という曲だ。紛れもなく、中学生の時に聞いていた(レコードが擦り切れるほど、と形容したいほどだが私はCDだった)「あの曲」だ。
今でも覚えている。歌詞もメロディも、展開も。
懐かしい気持ちになりながら引き続き店内を歩くと、「ただ今のBGM」と書かれたポップが目に止まった。そこに並んでいたのはまさに「Relaxin'」というアルバム。
アルバムの中ではこの曲が1番好きだった。
大体「青春」か「不死身の花」という人が多そうだけど、僕は「No.1」が好きだった。
サビの歌詞が耳に残る。やっぱりいい曲だ。
そうか、何も変わっちゃいないんだ、と気づく。
自転車を漕いで遠く吉祥寺まで赴いていた頃と本質は変わってないんだ、と。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?