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続・続・続・続・続・つづく

路地裏。タバコに火をつける。いくつもの室外機がやかましく稼働している音が背中に響いた。
換気口から漂う居酒屋の匂いがふと懐かしさを覚えさせる。あのバイト先も、こんな匂いだった。

プラシーボ。どうやらそうだったかもしれない。変に体調が悪い気がしていたのは、多分気のせいだ。
「寒い?」と聞かれて「そうでもないですね」と答えたが、きっとホントはちょっと寒かったのだ。

電車。日曜なのにこんなに人が溢れているのは年の瀬だからか。去年と同じ服を着て、去年と同じ道を歩いている。
毎年思っているけど、冬の寒さはここまで厳しかったか。失くした手袋のことを思い出して、少し悲しくなる。なんだか悪い気がして、新しい手袋はまだ買えない。

ため息。嫌な思い出がまた一つ増えてしまった。結果は悪くないのだけれど、思った通りにはいかなかった。
もう少し上手くできたら、と思ったりしては「まあこんなもんだよな」と言い訳を探す。「仕方ない」は積み重なるうちに巨大な「しょうがない」になってしまう。

欠伸。眠気は呼んでもないのにやってくる。いざ布団に入って目をつぶった時にはそっぽを向いてどこかに行くのに、余計な時に顔を出す。
外から電車、電車から外、これではまるで交互浴ではないかと一人にやける。

すれ違う人。浮かれている顔と、疲れ切った顔と、半々くらい。
今日くらいは俯いて歩くのは勿体無いかな、と思いながらやっぱりそういうわけにもいかなくてしゃがみこむ。

本。今月は数冊読めたから、調子に乗って今まで読めなかった難しい本に手を出したら案の定ページが進まなくて挫折。
代わりにまた別の本を鞄に忍ばせているけれど、一度失った読書習慣はそう簡単には取り戻せずに、ただの錘になっている。

新宿。こないだも来たこの街。改札の中でダラダラと始発を待つ時間も、やっぱり悪くなかったな。「久しぶり」が言える仲は嬉しいが、あの頃と違って毎日は話せない。

ヘアゴム。いい加減に新しくしたい気持ちと、髪を切ってしまいたい気持ちが頭の中でせめぎ合っていて、どっちつかずのままでいる。
美容院の予約画面まで行って、なんだかめんどくさくなって消してしまった。

一年。あっという間に過ぎ去る季節にしがみつくように過ごしていたら、振り返る頃にはもう随分と来ていた。
空は高く、思い出は遠く、日々はそれでも続いていく。何もしなければ、何もできないまま夕日を見送るばかりで、「明日やろう」を後数回でもう「あけまして」だ。

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