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Colour

昔-多分高校生の時だと思う。中高一貫且つ小さな学校だったので中学の時も高校の時も英語の先生は何度か僕を受け持っていたために「あの先生だったから〇年生の時だな」みたいな推論ができないんだよな。別にいつだっていいんだけど。
とにかく、先生が書いた板書の、文頭でも固有名詞でもないアルファベットが大文字になっていて、クラスメイトが「先生〜、そこってなんで大文字なんですか?」と聞いたら「気分です!(語気強め)」と返されたのを思い出しました。
僕が「カラー」をイギリス式のスペルで書くのも気分ですので許してください。題名の言い訳が終わったところで本題へ。好きな色の話、というか、好きな色がない話をしたい。

好きな色がない。逆に言えば嫌いな色もない。どんな色に対しても僕の気持ちは常にニュートラルで、「ま、なんでもいいですわ」って感じだ。
服の色にもこだわりはないし、イメージカラーみたいなものもない。ギターの色だって全色かっこいいと思うし、全色別にピンとこないな、と思う。実際僕が持っているギターの色は全部バラバラで、サンバースト(茶色から黒へのグラデーションのやつ)、サーフグリーン、シルバー(艶消しなのでギラギラはしてない)、ワインレッド(これは先輩から借用しているのでノーカン)、あと木目が透けてる赤。

だから好きな色がある人が結構羨ましい。折り紙を選ぶ時にも(そんなシチュエーションはあまりないが)、「私緑好きだから」みたいに迷わず緑色をチョイスしている人を実はかなり羨望の眼差しで見ている。僕はというと毎度「うーん、何色にしようかな…」と迷い尽くしては結局大して思い入れもないような色を取っている。だからその時何色をチョイスしたのかも全く-本当に全く覚えていない。
小さい頃はなにかこだわりがあったのかな。折り紙の中では『金』か『銀』が好きだったのだけれど、別に色が好きなのではなくキラキラしているのが好きなだけだったのではないかと最近になって思う。目立ったものが好きなだけなのだ。

高校時代の自分がやけに目立つ色-ピンクのセーターやピンクのベルトを身につけていたのは別にピンクという色そのものが好きなわけではなかった。目の前にパレットが出されて、「好きな色を選んでね」と言われても別にピンク色を選んだりはしない。同時に、「絶対にピンク以外を選ぼう」という気持ちもない。
たまたま「みんなが着ていない色」がピンクだっただけで、別にそれならばなんでも良かった。目立つことが目的で、その手段としてのピンク色なだけで、その色が特別好きかと言われれば「そうでもないですね…」としか言えない。確固たる意志を持って「私はピンクが好きだ」と言える人に合わせる顔がない。

「私は/俺は〇〇という色が好きだ」と言える人はかっこいいと思う。何かを好きだと言い切れる強さがそう思わせるのかもしれない。なんだかそういう人には「自分」がある感じがするのだ。好き/嫌いを他者に依存せずに決めることのできる人間になりたいなぁと思うその憧れが彼ら/彼女らに対する僕の「好きな色がある人への羨望」なのかもしれない。
同時に、「コダワリ」みたいなものも垣間見えて尚更それがカッコよく見える。誰に何を言われようとも「いや、僕/私はこれなんで」と言い切ることができそうなそのスタンスが、たとえただの色の話だとしても、クールだと感じる。

もちろん、これだけ言うくらいなのだから好きな色を作ろうと努力したこともあった。
たとえば、好きなスポーツチームの色。僕の場合は「青」だった。チームカラーなのだからもちろんユニフォームも青。キャップも青。事実、もう長らく使っているバッグは青を基調としたカモフラ柄だ。
でも、しばらく使ってみても別にこの色に特別愛着が湧くことはない。つまるところ別に好きにはなってないのだ。
多分だけど、「好きな色」がある人は旅先で買うストラップでもその色を選ぶと思う。そう思った時に、僕はわざわざ青を選ばない。青を選ぶイメージができない。残念ながら、好きなチームの色でさえ僕には何も響かなかった。

じゃあ、グループアイドルの一人一人に割り当てられたカラーはどうだ、と思った時もある。「サイリウムカラー」などとも呼ばれる個人個人のイメージカラー。例えばとあるグループのとあるメンバーの色。赤。
僕はしばらく赤色を探すようにした。赤い靴を買ったり、赤い時計を買ったりした。そういえば「赤」といえばアレじゃないか。速度が3倍になるあのキャラクターのイメージカラーも赤だ。
しかし、これは幸先が良さそうだぞと思ったのも束の間、いつの間にか自分の「推し」が変わってしまった。そうなると最早「赤」という色には何の意味もないし、別段特別な色でもないような気がしてきた。
そもそも、一つの色を推し続けることができない奴が、アイドルの単推しなんて10年早いのだ。改めて1人のメンバーを推し続けるオタクに敬意を覚えた。

その後も、黄色・緑色・白・水色...色んな色を試してみたが今のところ「これだ」と思える色には出会えていない。そもそも、この世には思ったより色が少ない。無論、数色の組み合わせからなる細かい色、例えば「山吹色」とか「エメラルドグリーン」とかはあるが、大枠で言うと黒・白・灰と赤・青・黄・緑・茶色・ピンク・オレンジ・紫くらいしかない。書き出してみたら思ったよりあるな、と思ったけどとにかく「〇〇という色が好き」と言えるのは大体こんなもんだ。
そういえば大学1年くらいの時に「パーソナルカラー診断」を授業でやったことがあるのを思い出した。様々な色のサンプルを顔の横に並べて「これはどうですか?」みたいなのをクラスメートに判断される時間は今思うとめちゃくちゃ恥ずかしかった。いや当時もかなり恥ずかしかったな。
自分は「似合う」とかいうのが本当に分からなくて、なんていうか本当に自分のことはどうでもいいと思っているので人から評価されることがめちゃくちゃ小っ恥ずかしい。悪い評価をもらうと「うるせえな、黙っとけよ」とか思うくせに、「いいじゃん」とか言われると素直に受け止められない。多分心の奥底に「自分なんか何の評価にも値しない人間ですから…」みたいな気持ちがある。自己嫌悪というほど重くもないが、自己肯定感が高いとは言い難い。

残念なことに、せっかくいただいたパーソナルカラーも完全に忘れてしまった。人から評価されるのは変に嬉しいくせに、「まあでも俺は俺何で」みたいな謎の尖りがあるせいで素直を受け止められない。
「ブルベ」とか「イエベ」とかふざけて言うことはできるのに、真摯に向き合えない。好きな服はあるけれど、やっぱりどうでもいいとも思っているのでこだわれない。
もう一度ちゃんと自分に似合う色とか考え出したら少しは好きな色を見つける旅も進むのかなぁ、と思ったりもするが、今更「僕って何色が似合うと思います〜?」とか聞けない。いや、聞けばいいんだけどさ。それを聞くための消費カロリーが結構高くて、「ま、なんでもええですわ」みたいな気持ちが先行する。何かを作ることにこだわりすぎて、他のこと全てに対してめんどくさがりになりがち。

色を大事にすることは、多分、自分を大事にすることとほとんど同じだ。「自分はこの色が好きです」ということは「自分はこういう人間です」と宣言することときっと近い。
じゃあ、好きな色をつくれば自分を愛することができるのか?という問いの答えはなんだ。自分を愛することができない者に某かの色を愛することもまたできないのではないか。
だから今まで必死に「好きな色を探そう」ともがいていた時の努力は全て水の泡で、僕が本当に望んでいたのは好きな色を好きといえる自己肯定感なのかもしれないとふと感じる。

そんな、まるで卵が先か鶏が先か、みたいな話に決着をつける必要があるのか、白黒つける必要があるのかと訝る間に「黒白(こくびゃく)をつける」という表現を思い出す。いつだったか。誰かが言ったのか。何かを読んだのか。それは思い出せないが、とにかくなぜかその表現だけが頭に残っている。
現代においては「白黒はっきりされる」という表現にとってかわられた「黒白をつける」という言い方。どっちがいいかなんてことをはっきりさせることこそ野暮かもしれない。

とにかく、白黒だろうが黒白だろうが、結局色なんてどうでもいいと思えるくらいにならないときっと一つに決めることはできないんだろうと気づく。「何かが欲しい」ともがいている間にその「何か」が顔を出してくれる可能性はほとんどない。
「俺にはそんなものは必要ないぞ」と言い切れるほど強くなれば色なんて勝手にあっちから向かってくるだろうと、不思議な自信がついたりする。何もいらない、何にも頼らずに自己を愛することができたそのときにきっと何色かの何かが目の前に現れるような気がして、むしろ今は好きな色など持つべきではないのではないかとすら思う。

鮮やかな色に囲まれて過ごしているうちに、いつの間にかどの色もいらなくなっていた。年明けに撮った白黒フィルムの質感が懐かしい。いつか、こんなモノクロの毎日にパッと美しい色が表れて、「彩度」の項目をぐっと上げたみたいになるんだ。きっとそんな日が来て、「あ、この色いいね」と言える日が来るまではどんな色も許容して、同時に拒否しながら。まるで昔の写真みたいな、白黒つかない、黒白の真ん中みたいな色の真ん中を歩いていこう。グレーな毎日が美しいと思えた時に、もしかしたら灰色が好きな色になっているかもしれないし。
そう信じ込んで今日も行く。冬の最中の朝焼けの色、カラリと晴れた秋晴れの色、梅雨の大雨の中の色。カラフルに染まった世界のうちの、そのどれかを指差しながらいつか胸を張って「好きな色だ」と言えるその時が来るまでは。

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