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月にいると思う

家が飛んで、月に降りた

いま、月にいると思う

窓の向こうには、月の大地だけが見える
わたしを悩ませるのは、見えないものたち
もう、外に出歩くことはできない

わたしに与えられた選択はふたつだけ
<WAIT> 体が月に馴染むまで、ただひたすらに待つ
<ACT> 外に出歩くために、今すぐ行動する
このふたつを頼りに、月の生活をやり過ごす

なぜだろう、こんなにも不便にみまわれているのに
ふしぎと、わたしのなかに「絶望」はない
待ち続けることが安全、それは分かっているけど
窓の向こうに広がる月の大地を眺めていると
どうしようもなく、体が熱くなる
これは若さが故の不具合なのかしら
それとも、記憶のせい?
意思とは無関係に「漲るもの」が、体を突き動かす
今すぐにでも、扉をあけて走り出したい

わたしは外へ出るために「装備」することを選ぶ
装備の理屈はわからない
安全の基準もわからない
わたしにできることは、ただ真似ることだけ
見よう見まねで、NASAのような宇宙服をつくる
仕舞っておいたテントを切って、縫う
縫い合わせることに飽きたら、貼りつける
できる限りを尽くして「安全そうな服」をつくる

安全そうな服は、扉をあける勇気をくれた
数メートル歩いて、再び家へ戻る
また少し、遠くまで歩いて、また戻る
もっともっと、もっと遠くへ

この世界で、楽しみをひとつ見つけた
手にした楽しみは、次の楽しみを誘う
こんなにも環境が変わった世界でも
新しい生き方は見つけられるのかもしれない
自分で発見した生き方なら、その先はきっと生きやすい
今日はもう、明日にそなえて眠ろう

たった少しの経験で、気がつけば進化も手中に収めかけている
もはや帰還など必要ないのかもしれないと、ふと思う

窓のそとを眺めて、空を見上げる
まんまるに差し掛かった
見慣れた大きな星が見える

なぜだろう、今日の地球はきれい

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