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漂流(第一章②)

第一章

2.
身なりからどんな生活をしているのか、想像するのは容易かった。それ故に彼を揶揄する気持ちも分からないではない。普通なら所謂 “いじめられっ子” になっていたと思う。だが彼は違った。いつも周囲を獣のような眼光で睨み付ける。何人か彼を直接侮辱するクラスメイトが居たが、ボス的存在の子がボコボコにされたのを最後に誰も彼に近づく事は無くなった。最初は、只の好奇心だった。異性としての “それ” とは違ったと思う。だが彼を知りたかった。だって、彼はとても怖くて無愛想なのに、飼育小屋のウサギに人参をあげていた。その時の笑顔を見てしまったから。この事はこの先も彼には話していない。だから私が何故彼に付きまとうのか?不思議で堪らなかったと思う。これが私と北村光男の宿命的な出会いだった。

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