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5分間のショートストーリー 『時間切れ』

後悔しないのか?と、
同い年の従業員·樋口が言った。
何が言いたいのかは分かる。
同僚のユキちゃんの事だ。
樋口はユキちゃんが好きなのだ。
しかしそのユキちゃんは俺の事が好きで……
有りがちな三角関係という奴だ。
ユキちゃんは俺達よりも二つ年上。
店長という立場で、仕事終わりには家に送る事が多々あった。もしかしたらその事が影響したのかもしれない。

その日の飲み会で樋口は勝負を掛けた。帰り際、俺に何か言いたそうなユキちゃんを樋口は半ば強引に連れ去った。ユキちゃんは最後まで俺を見ていた……。
店長は、あんな事出来ないよね?
知らぬ間に従業員の梢が横に居た。俺は何も言わずその場を去ろうとした。家に来る?と、梢が言った。そして彼女は俺の返事も聞かず歩きだした。何故か俺は彼女の後に従った。

10分程歩いて彼女のマンションに到着した。玄関には何足もの靴が散乱していた。一人暮らしではない様だ。
「大丈夫よ。みんな出掛けているから。」
もう朝の4時だが家人は居ないらしい。
俺を気にする様子もなく梢は部屋着に着替える。酔いと眠気が彼女の下着姿に反応する。
「店長も着替える?」
梢の意図はまだ分からない。俺は曖昧に答えその場を取り繕った。梢は俺の心を見透かした様に隣に忍び寄る。
薄っすらと明るくなった部屋の中で、いつもとは違う梢がそこに居た。俺は本能的に彼女の首筋を引き寄せる。そして鮮明に浮かび上がる真っ赤な唇に焦点を合わせた。
ガチャガチャ。玄関で物音がする。
「時間切れね……」
最後まで彼女の意図は分からなかったが、スリリングな思い出の一つだ。

end

https://stand.fm/episodes/643e6fa41ae73209f73b3035

https://note.com/mikutagida/n/n1e5288d9738f


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