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【喫茶店 美来】完結 5-5話『誰にも居場所はある』

イベント準備中
カランコロン
女の子が入ってきた。
「すいません。まだ準備中で、オープンは14時からなんです。」とわたしがいうと
「あの!わたし笠井 夏南美です!3年前に、働きたいとこちらを訪れたものです。」と礼儀正しい姿は変わっていなかった。

わたしは、「申し訳ない、すごく大人になったね~」といったところで
「夏南美ちゃん!」とスタッフルームから走ってきたのは、愛未だった。
二人は抱き合ってうれしそうな表情をしている。
わたしは何が起きているのかわからず、
「愛未さん、何が起きているの?」と聞くと
「店長。今日のスペシャルゲストです!」と万点の笑顔!

「夏南美さんのおうちの方は?許してくれたの?」と聞くと
「そうです!結局あの後、私立高校に落ちて、市立高校に行ったんです。
 毎日ケンカして、大学も第一志望の有名私大に落ちて、第二志望の私立大学に行って。今は、弟が私と同じ被害を受けています。なので、私は、見放されたって 感じです。それで来ることができたんです。」
「弟は、要領がよく、親の敷いたレール一直線って感じです。」

「夏南美ちゃん練習しよう!」と愛未は、待ちきれない様子だった。
「はい」といって練習が始まった。
二人は、キーボードとギター・マイクの音量をチェック
大輔に、「high上げて」「Low下げて」など互いに真剣な表情で
話している。

「それでは、練習いきます。みなさん照明が落ちますので、ホールにいる人は気を付けてください。厨房は消えないので安心してください」と音響・照明担当の大輔が声をかける。
キーボードとギター二人の弾き語り。
少しのステージ照明が二人を照らす。
練習ではあったが、二人は照明以上の輝きがあった。
2曲披露して、スタッフみんなの大きな拍手に包まれた。

そろそろオープン。
お客さんは、15人ほど集まった。
ミニスタッフや職員もいれると、会場は人でいっぱいだ。
会場が暗くなる。単独ライブスタート。
最初の30分は、愛未のソロ。

そしていよいよ。
二人の曲の時間。
二人の輝きは、最高だった。
2曲が終わり、「やり切った!」という達成感のある顔でスタッフルームに戻ってきた夏南美さん。優音くんや啓太くんが拍手をしている。

ライブは無事終了。
「すごく楽しかった」と二人とも達成感のある表情だ。
それを見て、涙がこぼれそうだった。

また照明が暗くなる
葉月と葵が
「店長前へ。」と前に置いてある椅子に座らされた。

ステージに出てきたのは、紗季ちゃんと里奈ちゃん
「店長。今までこの場所を守ってきてくれてありがとう。わたしたちは店長がいなかったら、ここまで来ることはできなかった。」
ミニスタッフたちも出てきて、似顔絵や花束を渡してくれる。

愛未が「店長、聴いてください」と
弾き語りしてくれたのは、「Sweet memories」

わたしは、前の店長を思い出した。店長が口ずさんでいた。
今までにないくらいの涙がこぼれた。

わたしは、この喫茶店がみんなにとっての居場所となってくれればいい
そう思ってみんなを見ていた。
愛未と夏南美さんがわたしのところに来た。
愛未が「店長がいなかったらわたしは、道を外していたか、レールに乗っかったまま墜落していた。それを救ってくれたのは店長、ありがとう。」
夏南美さんは、「あの時、愛未ちゃんに会えてよかった。店長さんが引き合わせてくれた運命だと思うんです。ありがとうございました。」

わたしは、また涙が出た。
「店長泣いてる~」と周りにみんなが集まってくる。

みんなのための居場所として作ったと思っていたが、
そうでもあるけど、これは『わたしの居場所でもある』と思った。

誰にでもしい明日がますように

【喫茶店 美来 完】
©心空