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【有料特典短編2本付き!】 アダルト・プレイ全集
優しさを持った人は、それ以上の悲しみを持っている。
※1これはフィクションです。実在する人物、著作物及び団体とはあんまり一切関係ございません。
※2一部令和日本において不適切と思われる表現がございます。作風の多様性を尊重していただければ幸いです。
Case 1. 陰謀の背織
長い付き合いの友人”まぁ”ん家に遊びに行った時の話だ。
まぁは感極まると、俺の背中に「むかつく、むかつく」と言ってはパンチのラッシュを全力で叩き込むイカれた相棒だ。
好物は2日もののファンタグレープ。Moët & Chandonとは行かねぇが、ルージュが派手な蓮っ葉女にくれてやるには勿体無ぇ。オレのようなタフガイと交わす、週末の独身貴族にちょうどいいご機嫌なブツだ。
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「二時間経ったら起こして」
肋骨の浮き出た馬車馬に似た安いベッドに横たわって、器械体操で鍛えた下町のでかっ尻女見てぇなケツにタオルケットを被せ、あいつはそう言ったんだ。
そん時オレは、女よりも首っ丈になっていたPCエンジンで「超絶倫人ベラボーマン」をやっていたんだぜ。
おいおいふざけやがって…
オレ様は遠路はるばる愛馬に跨り、わざわざおやつを食べながらゲームしにきてやってんだ。並の客とは訳が違う。
「クソみてぇな指図しやがって…」
こめかみがドクドク脈打つのを感じながら、オレはごくごく喉を鳴らして呟いた。
日頃オレ様にアザばっかりつくりやがる、ケツのデケェ水牛にいい加減、烙印を押してやらねぇとな。
オレはあいつをファンタグレープ越しに睨め付けたやった。
…あの馬鹿、もういびきかいて寝てやがる。
ファンタグレープのジョッキ越しに、ゾンビ色したあいつの寝顔はお袋におしめを変えてもらってる赤ん坊みてぇだった。
かわいいじゃねぇか…
そんとき、オレの頭に神様が降りてきたんだ。敬虔なバプティストのオレ様には縁のない、外国の知らねぇ神様がよぉ…。
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「おきてー。2時間たったで」
ニューヨーク訛りは、遠い日本のカンサイベンとかいう方言に似てるらしい。オレ様は心の中でほくそ笑みながらまぁを起こしてやった。
深い二重瞼を3重4重に増やしたあいつは言ったんだ。
「ああ、もう2時間?10分しか経ってへんみたいや」
オレは笑いを堪えるのに必死だった。なぜって?
寝てる間にあいつの部屋の時計を全部2時間進めてやったからさ。
次の日あいつはまた、オレの背中にあざを山ほど作りやがった。
生かしちゃおけねぇ。今度こそ処刑してやる。
お袋の尻叩きよりうんと痛ぇお仕置きをな…。
Case 2. 真夜中は同じ曲
「殺す!殺す!」
ああ、また始まった。相変わらず生ぬるいパンチだぜ。
週末、3日もののドクターペッパーを飲んでる時に、保安官仲間がリリースしたレコードにあるナンバーを流すと、決まってまぁはキレやがる。
確かに鬱陶しい曲だが、なんか癖になるじゃねぇか。頭の軽い若造が、おしゃれなふりして人生舐めた歌だ。だが、それがいい。
おれは先月、あいつの時計を細工してやった。2時間後に起こせなんて生意気な命令してきやがったんだ。あいつの部屋中の時計を二時間進めてケツを蹴っ飛ばしてやったんだぜ。あいつは寝ぼけ眼を擦って泣きながら、またオレにパンチのラッシュを叩き込んできやがったんだ。仕方ねぇからオレの背中を好きなだけ殴らせてやった。おいおい、やりすぎるとそのうちてめぇの拳が割れちまうかもな…。
ちょっとあいつの気持ちをほぐすために、エスプリの効いたジョークをブチ込んでやるか。背中が痛えわけじゃ、ねぇからな。
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「ぷーぷーちゃん」
「死ね」
あいつはいきなりオレのタフな胸板に向かって、チョップを突き立てやがった。シャバいチョップが、北斗神拳みてぇに効きやがる。背中は全然痛くないけどな。
ひょろひょろなまぁの指先が、まぐれあたりでオレの胸骨にヒビを入れやがった。背中は全然痛くないけどな。
「ゆるさねぇ」
好物のオレンジに爆弾を仕掛けてやってもいいんだが、せっかくできた相棒の最後だ。肉片くらい残してやりてぇ。
なぁに、そんな程度でくたばるような奴を相棒に選ぶほど、オレの趣味は悪くねぇ…
…女の趣味以外はな…。
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「つぎ、この曲をかけたら殺すゾ❤️」
いつものレコードが入ったジャケットをひらくと、真っ白な紙切れがヒラっと落ちてきやがった。
美大生みてえな美しい書き物で、俺様を脅してやがる。ご丁寧に微笑むフランス貴族みてぇな絶世の美男子のイラストから、スチームボート・ウィリーのコミックみてぇな吹き出しが飛び出してやがる。燕尾服にタイツ、西洋剣。これ、もしかして自画像のつもりか?あいつ、鏡見たことあんのか?
そんとき、オレの頭に小説家の幽霊様が降りてきたんだ。敬虔なバプティストのオレ様には縁のない、オーストラリアを彷彿させる名前をした性悪なベストセラー作家の生き霊がよォ…。
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「おはよー!今朝、寝覚めよかった?」
翌朝、コーヒーを淹れながら振り返って、オレはまぁにそう言ってやった。一瞬、あいつは鳩が豆鉄砲喰らったみてぇな顔しやがった。そのあと頭のてっぺんまで真っ赤になって、オレ様にパンチのラッシュをお見舞いしやがったんだ。
夜中の二時に、あいつの部屋のレコードが爆音で鳴るように、昨日タイマーをセットしてやった。きっとあいつのお袋にも、こっぴどく絞られたに違ぇねぇ。
「殺す!殺す!」
もちろん、背中は全然痛くないが、腹は割れるほど痛かったぜ。
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Case 3. 卒業 〜カサブランカ〜
気にいらねぇ…。
30前になった途端、同級生のスケどもがバタバタ嫁いで行きやがる。
幸せそうにあいつは自分が永久就職することを手紙に書いて送ってきやがった。手の込んだ手紙で誘っときながら…まるでオードリー・ヘプバーンみてぇな悪女だ。ろくな死に方しねぇ…
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…ある朝、家の前のリンゴの木を見ると、3枚の白い鳥の羽飾りがある見たこともないデザインの矢が刺さっていたんだ。
そこにはちっせぇメモが結んであった。
どうやらこれは日本の”ヤブミ”とかいう手紙らしい。馬に乗りながら日本の弓で、手紙を結えつけてブチ込む木におっ立てるらしい。豪快な女だ…嫌いじゃない。
見た目はヤマト・ナデシコらしい、吹けば飛ぶようなラブレターだ。オレならハンドガンで、あいつのハートにぶち込んでやる。そん時ゃカスタムしたサムライエッジでクリティカルヒット、イチコロだ。
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舐めやがって…
日本の女は、思わせぶりなあばずればかりだ。ご丁寧なヤブミまで用意して、伝えたかったのは自分の結婚。こいつはいっぱい食わされた。あいつはきっと、ゲイシャ・ガール…いや、ひょっとしたらクノイチ・ニンジャかもしれない。
あいつはアジア系の女だ。日本がルーツのファミリーで育ったらしい。アーモンド型の眼に人形みてぇな手足が生えてやがる。透き通った漆黒の瞳はマリーとか言った、どこかのイカれた貴族が持ってたダイヤモンドを思い出させやがる。ニューヨーク美術館の地下室で、人を呪ってるとかいうクソダイヤモンドだ。
呪いのダイヤはともかく、デート写真が散りばめられた招待状、あのアマ、ずいぶん幸せそうだ。
10年前の体育祭で、オレが愛用のマグナムをぶっ放し、同級生を20人処刑した時、あいつは目を潤ませてオレに話しかけてきやがった。あん時潤んでたのはでっけえ瞳だけかよ、ガハハー!
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…それにしても忌々しい。
…あいつの名前はヒトミ。見た目まんまのヒトミだ。
ヒトミ・ウェストライスフィールド。
これから先、あいつはオトコの苗字に変えるのか、それとも…
いいぜ、来いよ…アングロサクソンの魂を見せてやる!
そんとき、オレの頭に架空のオトコの魂が降りてきたんだ。敬虔なバプティストのオレ様には縁のない、教師と不倫した上にその娘のストーカーになったオトコの魂がよォ…。
星条旗よ、永遠に…
「それでは、祝電を読み上げさせていただきます。まず初めに…あ、このかた外国の方ですかね。ベンジャミン・ブラドックさんからです。」
あいつは祖国で結婚式をあげやがった。オレはあいつに祝電は打たなかった。だが、ベンジャミン・ブラドックの名前は聞いたことがある。なんかの映画の主人公だ。たしか、教師と不倫した上にその娘のストーカーになったオトコの名前だ。
エレイン…ヒトミが式ををあげて1週間後の話だ。あいつから電話がかかってきた。声のトーンはドスが効いていて、深く怒りを感じるが、口調は吹き出しそうな、笑いを堪えられないような…想定以上の、いい流れだ。
「もう、連絡せんといて。」
「あっはっは!、電報打つような仲やのに…あーっはっはっは!」
「あのな!あんなひどい電報打って、しかもあれトップバッターやってんで!司会固まってたわーっ!」
『ヒトミノシリハヒトミシリ』
そう読み上げた司会はしばらく絶句したらしい。
ヒトミは心底怒っていたが、僅差で笑いが上回っていたらしい。あいつの出身はカンサイという地方らしい。カリフォオルニアに似た文化らしく、笑わせれば勝ちらしい。
(君の瞳に乾杯)
心の中で呟きながら、オレはトレンチコートの襟を立て、空港を後にした。
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Case 4. SHOWJUNE
「私がオリジナルです!」
おいおい、ハニー。機嫌を治してくれよ…。
電話越しのジューンは憂鬱そうだった。
ジューンは大学の同級生だ。MITで多次元ストレージの研究室に進学が決まっていたけれど、元彼が追いかけてくるからという理由でMITを蹴った。現在、オハイオ大学で精神医療を学んでいる。
ジューンと僕の研究室は、CBT(認知行動療法)を研究している。
でも、僕は何をやっているのか全然わからない。
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なんとか検定とかいうものが二つあるらしく、統計を取るときに使うらしい。オレは入学直後に通り魔から頭をライフルで打たれ、右脳がない。左脳がなぜか右脳の代わりを務め、生命機能を維持しているらしい。
外見は整形手術で美男子になった。
通り魔の銃撃から生還した絶世の医学部美男子
現状そういう扱いなのでモテている。実際、現在は幸福の絶頂と言える。
生活に差し障りがないが、足し算ができない。つまり、一種の学習障害となった。計算ができないタイプの学習障害らしいが、銃撃以来何かを覚えるのが億劫で専門用語は覚えない。
多分頑張ったら覚えられると思うけど、普通脳の半分吹っ飛んで、大学生なのに小学生以下の演算能力になったような人間が、この上大嫌いな勉強をするなんて不公平だ。ねぇ、そう思わないかい?
実際のところ僕は、それほど落ち込んではいない。たまにテラスでフランダースの犬を思い出すと、鏡に映る自分はお葬式の未亡人のような色気が出ている。
百発百中でその日はお持ち帰り。
何か都合の悪いことがあっても、アンニュイな顔をしていたら周りが適当な理由をつけて味方してくれる。
銃撃と障害を受けた上にまともに勉強して卒業するなんて不公平だ。
全力で適当に生きてやる。
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「今回レポート落とすと、留年だ。」
毎回ジューンに泣きつき、レポートを写している。考察以外は一緒でいい。なぜって?同じチームは同じ結果が出るから。科学とはそういうものなのだよ、ふっふっふ。
考察内容の共通性から、写しているのがバレるなんて委細承知。大学運営もビジネスです。博士課程に進むつもりがないなら、卒業できさえすればいい。医師免許がなくとも、このままヒモを続ければいい。
しかし、今日ばかりは物理的に不可能かもしれない。後五分で考察を、ぎりぎり通る程度のオリジナリティを出すべく、少し捻って書くのが物理的に不可能だ。
その時、ボクの頭にSHOGUNの人格が出来たんだ。敬虔なバプティストのボクには縁のない、極東の地で国を治めた権謀術数の天才である為政者の人格にてござる…。
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「私がオリジナルです!」
二人全く同じ内容のレポートを出せば、二人とも再提出となる、つまり僕は1週間提出時間を延長することができたんだ。
ジューンはオールAの記録が達成できなくなった。何、たいしたことじゃない。右脳が吹っ飛ぶことに比べたら、靴に石が入ってたくらいのものだよ…
それから二週間後、期末最後となる次のレポートを写させてもらおうと、カフェテリアでジューンを待っていた。
残り一時間…あいつ、バッくれやがった…
「自分でやって」
電話越しに、ジューンの憂鬱そうな声が聞こえる。多分、けっこう同情されている。悪いことしたなぁ…。
…このタイミングでブッチ。
仕方がない、自分でなんとかするか。
到底人に言えないやり方で、30分で考察までのレポートを書き、あとはデータを読みながら考察を書く。
実は足し算もできるけど、嫌なんだよねぇ…真面目に勉強するの。足し算ができないって言ったら、みんなシンバイしてくれるし、助けてくれるし…。
意外と考察するのって、楽しいもんだ。卒業論文くらいは真面目に描こうかな。
「あ!」
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…データを読み間違っていた…手書きでグラフを写したときに、数直線の長さが適当だったから、勘違いした…
仕方がない、読み間違いに気づいてない体で書き上げるか。直す暇ないし。卒業できたらそれでいいし。
1週間後、帰ってきたレポートを見て、ちょっとイラッとした。
「評価B:よく考察されていますが、データを読み間違っています」
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Extra Case 1. One Way ~23年の不法投棄~
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