3.はじまり

距離が縮まった私たちは、本当によく世間話をした。

話題のお店、美味いスイーツ、天気や噂話、、
新しいエンタメに、J-POP、よく教えてもらった。

そんな時、繁華街のイルミネーションが始まった。
有名なイベントでもあるが、いい年した男が一人でイルミネーションに行くのは気が引ける。シングルマザーの彼女も、行きたいけれどきっかけがなかったようだ。

そんな風にして、初めての「デート」が決まった。

同僚や部下に知れるのは、やはり避けたかった。私のチームには複数女性もいたが、なかなか「多様」に満ちている。そんなこともあり、彼女とは時間差でビルを出て、少し離れたところで待ち合わせた。

お互い目が合い、それぞれ手をあげる。

今日は特別に寒いですね。
本当ほんと、風も強くて、寒さマシマシw。

ゆっくりと歩きだす。
広い歩道で、上司部下の距離を保つ。

正直なところ、少しドキドキしていた。
部下の女性と夜、二人で歩く。しかもお忍びで。
忘れていた不思議な感覚。
世の中じゃ、こういうのを不倫て言うのだろうか。。。

イルミまで歩く。
他愛のない今日の出来事が話題。
そして見えてくる光と人だかり。

あ、きれいですね。
そうだね、本当に綺麗だ。

久しぶりのイルミネーションに、二人はみとれた。

「自分」と言う時間に戻ることも少なく、毎日家事と仕事に忙殺されながら、社会のスキマや日陰とうまく付き合って生活し、
または「自分」を亡きものにして組織に埋没し、家族と離れて暮らしながら、独りで薄っぺらい時間を過ごして生活し、

そんなことを忘れてイルミネーションを見ていた。

少しの間、見惚れていて、静かな胸打つ動きに気が付く。

もっとこうしたいという理想があるけれど、現実はなかなか難しい。理想にと違う自分に、適当な言い訳や折り合いをつけて生きている。過去から続いて今があることは、頭では理解をしている。
だからこそ。
今を懸命に生きたいと思っている。

目の前にあるイルミネーションは、美しい。
理由や折り合いなんていらない。ただ、美しい。
暗い空に、優しい光を捧げている。

自分にはない輝きが、目の前にある。


寒さで正気に戻された。

寒いね、歩きますか。
そうですね、駅に向かって歩きましょう。

何枚かの景色をスマホに収め、イルミネーションを見るのはどれくらい久しぶりだったか、とか、どこそこのは綺麗だったとか、期待外れだったとか、少し盛り上がった。


そんな風にして、二人が並んで歩いていく。


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